高齢化が阻む現代アート市場
先日のtagboat Art Fairでは、展示作家にこれまでタグボートで展示をしてなかった新たな18名に参加してもらった。
それによる効果は大きく、フェアの来場者の平均年齢が下がって、新しい風が吹くこととなった。
展示作家の若返りが来場者の若返りを生み、一人あたりの購入額は若干下がったものの、購入作品数は前年に比べて大幅に増える結果となった。
2年前のイラストアートを中心とした現代アートのプチバブルが一過性のブームではないことが証明されたのだ。
一方、インバウンド市場に支えてもらってはいるものの、国内需要の低迷はアート市場全体に厳しい現実を突きつけている。
そういう環境下において今回のフェアの来場者の若返りは朗報であり、20-30代の人たちが決してアート離れをしているわけではないことが分かった。
どちらかといえば、お金を十分に持っている高年齢層のアート購入が減っているのであり、高齢の方はコロナ禍以降はアート以外のぜいたく品にお金を回すようになったということだろう。
高齢層に人気の高い作風のアートは、物価高が進み国内需要が上がらない市況においては、より厳しい局面に立つことになると予想される。
さて、日本は世界でもダントツの高齢化社会であり、平均年齢(年齢の中央値)は48歳を超えており、米国や中国とは10歳も違う。
この10歳の差というのが、現代アート市場において絶対的な意味を持つ。
米国や中国の富裕層は日本よりも10歳ほど若いため、20~30代ですでにお金を持っている層が多くいて、彼らが現代アートを積極的に買っている。
一方、日本では「現代アートは分りにくいもの」という固定観念を持つ保守的な年齢層が多くいて、現代アートの面白さを理解しようともしない。
年齢が高くなると、思考そのものが新しいものに向かわなくなるので、従来通りの分かりやすいアートにしか興味がいかないのだろう。
そういう世の中が進む中での打開策は、増えていく高齢層への対策ではなく、「若い層向けの作品の品揃え」であり、そうしなければ、いくら若い富裕層をターゲットにしたくても旧来の作品では振り向いてもらえないのだ。
Mika Pikazoという圧倒的な存在感
5月10日から人形町のtagboatでMika Pikazoの個展が開催される。
【公式ページ】http://tagboat.co.jp/mikapikazo-undervoyager/
Twitterフォロワー数120万人という国内の人気がトップのイラストレーターである。
フォロワー数だけで単純比較はできないが、現代アートの作家と比べると若年層からの支持が圧倒的に高いことが分かる。
Mika Pikazoはイラストレーターとしての実力はもちろんだが、作り出す世界観は、映像、インスタレーション、音楽、と多方面にわたっており、海外で活躍しているアーティストと伍して戦える実力を持っている数少ないクリエイターだ。
今回の個展では、LAIKAという架空の少女が探査機「ボイジャー」に載って宇宙を旅をしていく中で、少女の精神や行動が変わっていく物語と、それを元にしたインスタレーションとなっている。
「宇宙」と「精神」が交差する壮大なテーマを持っており、時空を超えたイラストやアニメーション、単管で覆われた空間演出など、多岐にわたる表現手法を体験できる展示となっている。
日本の現代アートが大きな転換点にある中で、イラストとアートの境界線について論じるのはすでに時代遅れだ。
高齢化が収まる余地がない現状において、新しいものに目が行かない保守層をいつまでも追っている時間はない。
失われた30年の経済が回復する見通しがない中で、その期間にずっと痛手を負ってきた現代アートの国内市場に鉄槌を打つ必要がある。
何をもってアートだとか言った定義づけを気にする時代は終わっており、クリエイティブであるもの総出で世界と戦っていける価値を作らないといけないのだ。
◆ Mika Pikazoオンライン販売ページ
https://www.tagboat.com/products/list.php?author_id=1008540