
かつて音楽業界の主役は「CD」というプラスチックの円盤だった。
しかし、デジタル化の波はそれを容赦なく飲み込み、音源そのもので稼ぐ時代は終焉を迎えた。
そこでソニーミュージックをはじめとする巨大レーベルが生き残るために選んだ道は、単なる「レコード屋」から、アーティストのあらゆる活動をプロデュースする「総合エンターテインメント企業」への変貌であった。
今、彼らの収益源は音源販売ではない。
アニメやゲームとの強力なIP(知的財産)連携、ライブ興行、ファンクラブ運営、そしてブランドとのライセンス契約。
アーティストという「才能」を360度あらゆる角度から使い倒し、マネタイズする。
この転換によって、音楽業界は「モノの死」を乗り越え、過去最高益を更新するほどの力強い復活を遂げたのである。
アート市場に足りない「企み」
ひるがえって、現代アートの世界はどうだろうか。
残念ながら、そこにはまだ「萌芽」さえも見当たらない。
未だに「一点ものの作品を売って終わり」という、偶然の出会いと富裕層の胸三寸に頼ったフロー型のビジネスに終始している。
業界の内側では「なれ合い」のような閉鎖的なコミュニティが維持され、新しい価値を生むためのダイナミズムは停滞したままだ。
音楽業界が「CDの死」という絶望からシステムを再構築したように、アート業界もまた、一点ものという「モノ」の呪縛から脱却しなければならない。
我々が目指すべきは、アーティストを孤立した「職人」にするのではなく、コレクターや企業を巻き込んだ「巨大な企みの中心」へと据える、レーベル型運営への転換である。
アーティスト・コレクターと共に「たくらむ」共生
このレーベル型運営において最も重要なのは、単なる「管理」ではなく「共生」という視点だ。
アーティスト、コレクター、そして運営側が、一つのチームとしてアーティストの価値を上げるために「たくらむ」関係性である。
例えば、タグボートが主宰する「Independent Tokyo」のようなアーティスト育成の場は、単なる勉強会ではない。
それは音楽業界でいう「新人開発(A&R)」であり、市場で戦える強力なIPを育成するための「戦略拠点」だ。
作家がセルフブランディングやマーケット分析の武器を手にすることは、彼らの自立を促すと同時に、それを支えるレーベルやコレクターにとっても、保有資産の価値を約束する確かな担保となる。
また、コレクターの役割も変わる。
単に完成した作品を買う「客」ではなく、アーティストの成長や異業種コラボ、興行としての展示を共に仕掛ける「共犯者」となりうるのだ。
彼らが保有する作品の価値を上げるために、レーベルが他業界との橋渡し役となり、グッズ展開やライセンス運用を加速させる。
この多角的な展開によってアーティストの認知度が上がれば、その象徴である「原画」の希少性は、逆説的に神格化されていく。
「消費」が「資産」を神格化する
ここで、ある懸念を抱く者がいるかもしれない。「グッズやコラボで大衆化すれば、一点ものの原画価値が下がるのではないか?」と。
しかし、ソニーミュージックなどの動きを見れば、その答えは明白だ。
ストリーミングで何億回も聴かれ、街中にTシャツが溢れるスターほど、その「ライブ」の価値は高騰し、直筆のサインや希少なレコードは神格化された資産となる。
アートも同様である。多くのチャネルでアーティストが「エンタメ」として消費され、その世界観に熱狂するファンが増えるほど、その頂点に君臨する作品は、誰もが憧れる究極の資産として価値を跳ね上げる。
多角的な展開は、一点ものの価値を毀損するものではない。むしろ、その希少性を証明し、守るための「熱狂の土台」を作る不可欠なプロセスなのだ。
アートを「生きた資産」へ
我々が描く未来は、静まり返った白い部屋で作品の買い手を待つ、孤独な作家の姿ではない。
アーティストという才能を中心に、教育、興行、ライセンス、コラボが激しく循環し、常に新しい価値が生まれ続ける「生きた経済圏」の構築である。
アート業界に横たわる「なれ合い」の壁を壊し、異業種をも巻き込んだ巨大なエンターテインメントへと昇華させる。
アーティストやコレクターと共に、新しい時代の価値を「たくらむ」。
このレーベル型運営へのゲームチェンジこそが、日本のアーティストを世界へと押し上げ、その資産価値を永遠のものとする唯一の正解であると確信している。
タグボート代表の徳光が「のらギャルおーかの現代アート学」に出演して、アートの楽しみ方について分かりやすく解説してます。
ぜひご視聴ください!
2月20日(金)から個展「Eureka」を開催します!
「Eureka」
2026年2月20日(金) ~ 3月10日(火)
営業時間:11:00-19:00 休廊:日月祝
※初日の2月20日(金)は17:00オープンとなります。
※オープニングレセプション:2月20日(金)18:00-20:00
入場無料・予約不要
会場:tagboat 〒103-0006 東京都中央区日本橋富沢町7-1 ザ・パークレックス人形町 1F