国内のオークションハウスが活況を呈している。
セカンダリー市場がアート市場を牽引していく仕組みはこれまでもアジアで顕著だったのだが、日本もついに他のアジア各国の後追いをする形でマーケットが成長しているようだ。
ただし、オークションが主導するアート市場には問題が多く、自国のアーティストが成長していない段階で異常な高値が付いてしまいその後の暴落をまねいたりすることもあるので要注意だ。
特に中国ではギャラリーを通さずにアーティストから直接オークションに出品されることも多いという。
しかも落札金額はレコード(記録)として残るが、結果として支払いがされないこともよくあるようだ。
日本のアートのオークション市場は全体で150億円程度であり、クリスティーズ香港の年間の落札総額が1400億円なので、ひとつのオークション会社の香港エリアの10分の1にすぎない。
つまり、国内のアートのオークション市場は欧米と比較すると二桁ほど小さいことになる。
国内のアート市場が伸びているとはいえ、それ以上に欧米を含む他の国も伸びているので追いつくどころかまだまだ差は広がるばかりだ。
特に国際的なアーティスト銘柄では、バスキア、バンクシー、ジョージ・コンド、リチャード・プリンスといったアーティストが欧米のオークションでは強いのだが、国内ではあまり動きがない。
また国内アーティストでも草間彌生、村上隆、奈良美智といったアーティストのうち日本マーケットがけん引しているのは草間彌生だけである。
特に村上隆はオリジナル作品が国内であまり販売されていないこともあって、オークション市場で売買されるのは版画だけだ。
国内オークション市場で圧倒的に強いのは、クリスティーズやサザビーズなどのオークションでは一切出てくることのないKYNEやBackside works.などのイラストアートであり、コロナ禍で海外に買いに来れない中国人コレクター中心となって買い支えることで市場が出来上がっている。
このようなイラストアートのセカンダリー市場は欧米のトレンドとは大きく乖離しているのでいつまで人気が続くかは誰も分からない状況である。
80年代の漫画やシティポップを模倣した作品が市場を跋扈し続けるのはそんなに長くはないだろう。
欧米とのトレンドの乖離はオークションに参加するコレクター層の質にも大きく影響していることは間違いないからだ。
欧米と比較すると2ケタ小さい日本市場だからこそ、大きく人気が集中すると一気に価格が高騰しやすい傾向がある。一時的な人気が本人の実力に見合っているかは欧米のトレンドと見比べながら冷静に判断したほうがよいと思われる。
イラストアートがバブルであるかどうかはこれからの歴史が証明することになっていくだろう。
カギを握るのはデジタル作品
そういった脆弱な日本のアート市場ではあるが、欧米のオークションではNFTによるデジタルアート作品の売買が拡大している。
昨年(2021年)のクリスティーズはデジタル作家Beepleの作品が約75億円で落札されたが、それ以外に100点以上のNFTが販売され、取引額は今の為替で計算すると200億円にもなった。
昨年はブームで急騰したため、2022年にはやや落ち着いた結果となるであろうが、全体の2-3%くらいをデジタルのNFTアートが今後も占めていくと思われる。
デジタルで作る若いアーティストがどんどん増えていることから、セカンダリーのトレンドもその後を追うこととなり、欧米のアート市場におけるNFTのデジタルアートの占める割合は増加の一方だろう。
とはいいながら、このコラムにも何度か書いているのだが、NFTのプラットフォームに出品されているデジタルアートのほとんどがアート作品としての価値が「ゼロ」に近いため、デジタル作品の絶対量が増えてもアート市場として成長するには質の向上が必須だ。
日本のデジタルアートの作品で有名なものは多く、最も知られているのはチームラボの作品であり、次はライゾマティクスなどのデジタル技術を活かしたインスタレーションやプロジェクション・マッピングだ。
どちらも事業会社の運営によるもので、複数のクリエイター集団による作品となっている。
一方、来週9月28日からタグボートの企画で開催する落合陽一のメディアアートは、集団制作ではなく個人がプログラミングしたものであり、単体の作品としてコレクションしたり楽しめたりするものとなっている。
現代の魔術師とよばれる落合陽一は大学で研究するアカデミックな経歴を持つ傍ら、3Dホログラムを活用したインスタレーション作品を制作したり、スタートアップ企業の起業家やテレビやメディアのコメンテーターなど多彩な肩書を見せる。
天才の名をほしいままにする落合陽一の新たなチャレンジを実際にこの目で見ながら、コレクションするのもよいだろう。
<開催概要>
開催期間:2022年9月28日(水) ~ 10月11日(木)
※最終日のみ1Fは15時閉場、7Fは20時閉場
会場:阪急MEN’S TOKYO 1F main base、7Fタグボート
(〒100-8488 東京都千代田区有楽町2-5-1 阪急MEN’S TOKYO 1F main base、7Fタグボート)
オンライン販売:2022年9月28日(水)14:00より開始(予定)
http://tagboat.co.jp/yoichi_ochiai/
落合陽一氏は東京を拠点に活動するメディアアーティストで、境界領域における物化や変換、質量への憧憬をモチーフに作品を展開している。
2010年に本格的な作家活動を開始し、これまで国内外での個展やグループ展、写真集の刊行など、精力的な活動を行ってきた。
今回の個展では実験的な試みとして、インタラクティブな新作「ヌル即是色色即是ヌル」を発表する予定です。
また、今回展示するNFTを素材としたアート作品の一部は、オンラインとオフラインのハイブリットでの販売を予定している。
世界が注目する若き才能を、ぜひ会場でご覧いただきたい。
タグボート代表の徳光健治による二冊目の新刊本「現代アート投資の教科書」を販売中。Amazonでの購入はこちら