中国・上海において、今や世界が注目する二大アートフェア、「ART021」と「West Bund Art & Design」が存在感を増している。
私はこれらのフェアに足を運び、その規模と勢いに目を見張った。特にART021は今年から香港でも開催され、他都市への展開も進んでいる。上海のアート市場が急速に拡大していることを、この二つのフェアが如実に物語っている。
香港から上海へと向かうアートの潮流
従来、アジアのアート市場の中心は香港であった。
香港には「アートバーゼル香港」250軒や「アートセントラル」100軒のギャラリーが一堂に会する大型アートフェアが存在しており、これらはアジア市場の入り口として機能してきた。しかし、上海のART021とWest Bund Art & Designの出展規模は合わせて300を超え、香港と遜色のない規模にまで成長している。
香港がアジア市場の窓口として優位に立っていた理由は、フリーポートとしての免税制度、表現の自由、そして英語が通じることが挙げられる。
しかし、上海は商業都市としての集客力に加え、中国本土の豊富な人材と資金を背景に、その注目度が高まっている。
特に近年、上海の西岸地区(ウェストバンド)はアートと新産業の集積地として急速に開発されている。この地区は、アートだけでなく、デザインやITなどの新興分野の企業も集積しつつあり、アジアのアートの新たなハブとして機能し始めているのだ。
美術館の集積と文化的発展
この西岸地区には、Westbund Museum(ポンピドゥーセンターと提携)、龍美術館といった大型美術館も集まっている。特に現代アートの展示が目立ち、訪問者は次々と増加している。
もちろん香港にも、巨大な現代美術館「M+」が存在し、これはアジア随一の現代アートの展示施設として高く評価されている。しかし、上海のアートシーンは、背景に世界最大級のマーケットを抱えていることもあり、香港と肩を並べるどころか、将来的にはそれを凌駕する可能性も秘めている。
コロナ禍を経た中国アートの質的向上
私が上海を最後に訪れたのは2019年の秋、コロナ禍の前であった。今回、5年ぶりに足を踏み入れた上海のアートシーンは、想像以上の進化を遂げていた。特に、中国人アーティストのクオリティが飛躍的に向上している点に驚かされた。
10年前、あるいはそれ以前の中国アートは「高価格だがクオリティに見合わない」と評されることが多く、セカンダリーマーケット(オークション市場)での価格も高騰していたが、それが適切ではないとの意見が少なくなかった。
しかし現在の上海で見た作品には、欧米のアーティストに引けを取らない技術とコンセプト、表現力があり、これらが展示会場で堂々と輝いていたのである。
若手アーティストの台頭と新たな表現手法
特に20代の若い中国人アーティストの作品には、斬新な表現方法が取り入れられている。デジタル技術を駆使した映像作品やメディアアートが目立ち、その斬新さと大胆さには感嘆せざるを得ない。中国の若手アーティストは、急速に発展するデジタルテクノロジーの恩恵を受け、創造性を最大限に発揮しているといえる。
一方、日本人アーティストの作品は平均的なクオリティにおいて、残念ながら中国に遅れをとっている。
これは中国の巨大なアート市場が作家の成長を促していることの証左でもあり、アート市場がアーティストの質に与える影響を強く感じさせる事実である。
アーティストにとって市場が存在することは、自己の表現を磨き、技術と感性を高める動機となる。そのため、成長する中国の市場が、今後さらに才能豊かな中国人アーティストを輩出する可能性は高い。
富裕層と市場の不安定さ
しかし、中国のアート市場は必ずしも順風満帆というわけではない。ゼロコロナ政策による経済の停滞とその余波から、中国国内の富裕層はアートの購入を躊躇している現状も見られる。
かつては中国経済の成長に伴い、富裕層がアート市場を支えていたが、現在は一時的な縮小傾向が見られるのも事実である。
しかしながら、中国経済が不況を脱した際には、再びアートへの需要が盛り返すと期待されている。
とはいえ、政府の政策や経済状況に左右されやすい中国市場の特性は、今後もアートビジネスにおいて一定のリスクとして残るだろう。
日本のコレクターへの影響と今後の展望
日本のアート市場においても、中国人アーティストの評価は今後高まることが予想される。
これまで日本のコレクターは、欧米の作品や国内の作品を重視してきたが、中国のアートシーンがこれほどの勢いを見せている現在、彼らの関心が中国人アーティストに向かうのも時間の問題である。
中国のアート市場の成長は、中国国内のみならず、アジア全体、さらには世界のアート市場に多大な影響を及ぼすだろう。