アートフェアという販売形態が初めてドイツのケルンでスタートしたのが、1967年。
そこから50年以上が経過し、アートフェアは世界中のあちこちで開催されるようになった。
アートフェアは世界で800件を超えると言われているので、毎日複数のフェアがどこかで開催されているということだ。
アートバーゼルのように規模だけでなく権威も拡大させることで富裕層の獲得に成功しているアートフェアは、その威力を増大させている。
アートバーゼル、フリーズアートフェア、アーモリーショーといった一流のフェアは出展基準が年々厳しくなっており、新しいギャラリーにとっては出展そのものが上を目指す目標になっている。
拡大し続けるアートフェアのメリット
元々は、アートの見本市という意味合いで、各地に散らばるギャラリーの作品を一堂に見て買える機会が得られるということで、コレクターにとっても非常に合理的かつ効果的な売買の場であったといえよう。
ただし、自動車メーカーやIT企業などの新作を発表する見本市というよりも、行商の場としての意味合いが強いのがアートの特徴だ。
特に、ギャラリーが地元の販売だけでは顧客基盤が弱いことから、新しい顧客との出会いを求めてフェア開催地に売って回る業者は少なくない。
また、ギャラリーによっては販売のメインをアートフェアとしているところも多く、通常のギャラリー展示よりも力を入れているところもあるようだ。
そのようなギャラリーは年間のアートフェアの予定から全体のスケジュールを回すようにし、各フェア先でお得意先を増やす努力をしているのだ。
そうなると、自社のギャラリースペースでの販売よりフェア出展のほうがメリットが多いので、作家のプロモーション目的だけでなく、その場でいかに売り上げを立てるかが重要になってきている。
ギャラリーによるアートフェアの有効活用が進む一方で、フェアの出展難易度によるギャラリーのレベル分けが行われるようになった。
スペースの広さ、営業年数、所属作家のクオリティによって、フェア主催者がギャラリーを格付けしているのだ。
このようにアートフェアそのものが購入者へのブランディングを進める中で、ギャラリーもアートフェアを盾にしたブランディングを同時に行っているのだ。
アートフェアのオンライン化
さて、コロナ禍はアートフェアの開催において重要な課題を残すこととなった。
国を越えた行き来が難しくなることで出展するギャラリーが激減したり、従来通りの集客が望めなくなったのだ。
フェアによって進化したグローバル化は鳴りを潜め、ローカル化へと傾倒せざるを得ない状況となった。
また、現地での販売だけでは売り上げが期待できないことから、アートフェアはオンライン化の同時開催へと舵を切る方向へと変わっていく。
実物展示とそれを補完する形でのオンラインがこれからの主流となってくるだろう。
しかしながら、このオンラインの部分がまだ十分ではないフェアが多いのが今の実情だ。
展示の様子を360度カメラに撮ってVR空間でフェアのイメージを再現しようとするところもあるが、顧客が期待しているのはそのような小手先のイメージ作りよりも、作家、作品の情報の質と量だ。
情報の充実を優先させることではじめてオンラインとオフラインの融合に意味が出てくるだろう。
アートフェアを長期戦略のハブにする
自分のギャラリースペースであればいつでも顧客に来てもらうことはできても、アートフェアは開催期間の数日間でしか現地の顧客と会うことはできない。
逆に言うと、その短い期間で顧客情報を入手できなければ、翌年のアートフェアまで待つしかないのだ。
会期中に名刺交換できる顧客は百人にも満たないだろうから、数日間の顧客との接点をどのように広げるかというのが課題であろう。
アートフェアの主催者側には顧客リストがあっても、出展者は個別にギャラリーに寄ってくれた人に話かけるといった従来型のやり方からは中々抜け出せないでいるのだ。
タグボートは今年3月に独自のアートフェア「TAGBOAT ART FAIR」を開催した。
顧客はフェアの会場でも買えるし、全作品はオンラインからネット購入もできる新しい仕組みを提供した。
購入者からみると売買ルートの選択肢が広がるし、またフェア開催後も引き続きオンラインから買えるメリットは大きい。
今年は都心のワンフロア1,530㎡のスペースで開催されたが、来年はツーフロアとなり3,000㎡を超える広い会場となる。
アートフェア東京の国際フォーラムが5,000㎡であり、そのうち現代アート部門が3,000㎡程度なので、ほぼ互角のスペースとなるのだ。
アートフェア東京に出展する約150ギャラリーに対して、タグボートは1社のみ。
この予想できないような図式が東京の二大アートフェアへと変遷していくだろう。
ぜひ新しいアートフェアの展開に期待して頂きたい。