タコツボ化する日本のアート市場
日本のアート市場は従来から、他の先進国に比べると極端に小さいことが知られている。
これまでのコラムでも度々触れてきたが、国内市場の縮小は多岐にわたる要因に起因する。
主に、アートを購入可能な資産層の年齢が高く、アートを投資として理解している人が少ないことが、この問題を複雑にしている。
日本は世界でも最も高齢化が進んでおり、そのため保守的な傾向が強まっている。
特に、理解しにくい現代アートを購入する際には、多くの人が躊躇するという構造的な問題が存在する。
この問題に対処するためには、アート投資への啓蒙活動が必要だが、高齢化が進む中でその普及には時間がかかると考えられる。
コロナ禍での自宅待機が長引いた期間、多くの人々が余ったマネーをアート購入に向けた事例も見られた。
この時期には、特にイラストアートのような分かりやすい作品が投資商品として人気を博し、国内のオークション会社が市場形成を支えた。
しかし、欧米がコロナ禍を早期に終息させた一方、日本は実質的な解禁まで3年以上を要し、その間に市場は元の状況に戻ってしまった。
このような状況では、再び国内でアート市場が拡大する兆しは見えてこない。
国内市場の限界と海外展開の必要性
国内市場の規模が小さいままであれば、日本に住むアーティストの生計を立てることは一層困難になる。
一方で、海外へ作品を輸出する活動はそれほど盛んではなかった。
海外での成功を夢見て渡米するアーティストの話は耳にするが、国内外で人気のあるアーティストである松山智一など、海外市場で活躍している日本人アーティストは決して多くない。
多くのアーティストは、ギャラリーがサポートしてくれないため、自ら海外に進出するしかない状況に置かれている。
言語や資金の問題もあり、アーティストが単独で国際市場に挑むことは難しくなっている。
さらには、渡米しても生計を立てるために多くの時間をアルバイトに費やしているアーティストも少なくない。
海外市場への進出は、日本のギャラリーがより積極的に取り組むべき課題だが、海外のアートフェアに出展すると国内と比べて2~3倍のコストがかかるため、ギャラリーにとっては非常に高いリスクを伴う。
このように、資金的なリスクを常に抱えながら気軽に出展することは難しい状況にある。
新たなムーブメントの提案
しかし、日本のアーティストたちが諦めるにはまだ早い。
海外でリアルな作品を展示する機会を増やすことは理想的だが、それに先立ってオンラインでバーチャルに作品を展示することの重要性が増している。
コストを抑えつつ、効果的に海外でのマーケティングを展開することが今後のカギとなるだろう。
単独のギャラリーによるマーケティング施策には限界があるため、海外での「日本人アーティストは高いクオリティで価格が安い」という認識を広めることが重要である。
それによって、欧米で日本のアートのムーブメントを早期に形成する必要がある。
資金と意欲さえあれば、アーティストと欧米市場とを結びつけることは可能だ。
米国ではかつて、世界大恐慌時にニューディール政策を通じて経済を再活性化させた。
その一環として実施された「連邦美術計画」では、多くのアーティストが政府によって雇用され、アートの社会的ニーズを高めることができた。
この政策はアメリカ全体の美術水準を引き上げ、ヨーロッパからも多くのアーティストが集まる契機となった。
日本政府にも同様の施策を期待することは難しいかもしれないが、業者が主導して国内のコレクターやアートファンの資金を集め、アーティストが生活できる環境を整えるムーブメントを作ることは可能だ。
海外との架け橋を意識して作ること、アーティストがより自由に作品を制作できる環境を整えることが重要である。
海外市場には特に欧米を中心にまだまだ多くのチャンスがあり、市場の拡大の余地がある。
アジア市場に依存することなく、世界最大の市場に挑戦する意志が必要だ。
圧倒的な創造性を持って欧米のアーティストと競うためには、自由に創作活動ができる環境の提供が不可欠である。
ムーブメントを作ることは容易ではないが、挑戦しないことにはさらに大きなリスクが伴う。
今は海外市場を目指して大きな一歩を踏み出し、賛同者を増やしていくことが求められる時である。