明けましておめでとうございます。
さて、今年も日本のアート市場が今後どのようになっていくのかについて考えてみようと思う。
もし日本政府がこのまま今年も高齢者優遇の政策を続けるならば、世界の中で日本だけが長期的なスタグフレーション(景気停滞)に突入する可能性が出てくるだろう。
アートは消費者の余剰のお金を使うことによって成り立っているので、景気の動向に敏感に反応する市場であることは間違いない。
特に富裕層が物価の上昇によって将来の展望を危惧してしまうと、アート市場も急激にストップがかかってしまうのだ。
アート投資は少子対策に似たところがあって経済に先行き不安があると心象的に前に進まなくなるものなのだ。
そういう意味では数年前からようやく成長が始まった日本のアート市場に今年から黄色信号が点滅するかもしれない。
国内だけでなく海外のマーケットをメインにしている業者からすると日本の景気がさほど悪くなったとしても痛手は少なくて済むかもしれない。
海外顧客を様々な地域で持っていることが安定した売り上げをもたらすだろうが、実際には多くのギャラリーの顧客のほとんどが国内にあり、抜本的な対策がなければ景気と共に国内のアート市場が衰退することは免れないだろう。
作品の交換価値が安心を生む
国内景気の動向に影響を受けないようにする方法として、端的にいえばアート作品が安定したリターンを生む仕組みを作ればよいということだ。
平成バブルやリーマンショックの時には、脆弱な国内アート市場は急速にその規模を縮小せざるを得なかったのだが、それは株価や不動産以上にアートの資産価値が下落したからである。
つまり不況期にセカンダリー市場に流出した作品を買い支えることができずに暴落していくのを指をくわえて見るしかなかったからだと言えよう。
アート作品は株価や不動産のような投資商品と比べるとまだ信用がなく、交換価値については「もし当たればラッキー」くらいしかなかったことが原因だったのではないだろうか。
アートという商品が買った後に安定した収益をもたらさないからこそ一番最初に売りに出されるし、売りに出された作品を買おうとする人もいなくなってしまうのだ。
このような過去の不況期における失敗が、日本のアート市場を先進国で最弱にしていると思われる。
であれば、アートを景気の動向に関係なく安定した収益を生む商品へと変えていかなければならない。
アートの価格情報を開示すること
今のアート業界におけるセカンダリー市場はオークションハウスが落札価格やエスティメートを開示しているが、それ以外のプライマリー市場では一般ギャラリーが展示作品の価格を明示していなかったり色んな部分が分かりにくくなっている。
海外でもギャラリーが展示作品の価格を出していないことがあるが、これは価格を見せると展示のコンセプトを伝えるのに邪念が入ることと、スッキリとしたホワイトキューブの展示ができないという理由によるものだ。
だから海外のギャラリーは顧客に言われるとすぐにプライスリストを見せてくれる。
一方、日本の場合はプライスリストを見せてもらうという文化や風習がないので、価格の表示がないのは隠しているように思えて敢えて訊く人が少ないようだ。
だから、購入希望者は気軽にギャラリーに訊くこともせずに分からないままになっているのだ。
日本人特有の「訊くことを避ける文化」がプライマリー作品の価格を分かりにくくしており、あえて表記するようにしていかなければ価格の情報はずっと不透明なままだろう。
購入者に対するギャラリーの販売責任
もうひとつ重要なのは、購入者がセカンダリーとして作品を売りたいときに自社で販売した作品については責任をもってギャラリーが売るという姿勢を見せることだ。
もちろん買い取りを明言しているのであればまったく問題ないのだが、自社が売った作品をすべて定価で買い取るギャラリーは国内ではほとんどないと思われるので、委託販売ということになる。
従い、実際に売れるかどうかはマーケット次第なところではあるが、ギャラリーによっては一度売った作品の販売を受け付けているかどうかさえもわからないことが顧客にとって不安材料になっているのだ。
売りたくても購入したギャラリーが売ってくれなければ国内の有名オークションハウスでは実績のないアーティストは断られる可能性が高いので、顧客は手っ取り早くヤフオクやメルカリといったネット販売で売ることが増えているようだ。
ヤフオクやメリカリにはアートの専門家がいるわけではないので、オンラインで表記される価格が市場的に正しいのかまたは掲載されている作品の真贋がどうなっているかに責任がとれるわけではない。
両社はあくまでオンライン上で取引をするためのプラットフォームを提供しているだけで、そこで取引されることは売買の当事者の責任で行ってもらわなければならない。
つまり、本来ならギャラリーが専門のオークションハウスで取り扱っていない作品については最大限の販売努力をするべきであり、それを明示することが重要であろう。
マーケットからの信頼を失わないようにするには、作品の価値を貨幣に交換できる可能性を高めるしかない。
そのために我々のような業者ができることは価格情報の開示と販売責任であり、それをやらずして市場の安定は求められないのだ。