贋作問題は業界に激震を与えた
画廊主が版画作家と共謀して贋作を作って販売するという未曽有の犯罪事件がニュースとなった。
犯人が逮捕されたことで事なきを得たように思われるが、業界全体の問題としてはただ事では済まないようだ。
そのひとつとして、百貨店にとって物故作家の版画の販売ができないといった問題にまで発展しているのだ。
今回はプロによって本物と同じリトグラフの制法で複製画を作っていることから真贋を見破ることは難しかったとのこと。
版画の場合、作家の証明書が付いてないことが多いので真贋判定ができないのだろう。
このような事態になると、版画の流通量そのものが減少するので、美術業界にとっては大きな痛手となる。
平山郁夫や東山魁夷、片岡球子といった旧来の「洋画」と言われる世界において、版画に関しては国内に専門の鑑定機関が少なく、芸術作品の取引で本物であることを証明する「鑑定書」がないまま売買されているのが実情だ。
今回の逮捕者については著作権法違反の疑いで罪に問われているが、詐欺罪はまだ適用されていない。
理由として「オリジナル絵画と異なり、版画は複製しやすく、同様の作品が多く流通しているため、相手をだましたことの証明が難しい」とのこと。
購入者が著作権者の許可を得ていない版画を気に入って買った場合、厳密に購入者をだましたとは言い難く、詐欺の要件である「相手をだます行為」に当たらない可能性があるらしいのだ。
平山郁夫、東山魁夷、片岡球子といった作家の贋作問題は百貨店や画廊での影響は大きく、これらを主力作品として販売してきた業者にとって、一定期間に販売できなくなった問題の大きさは計り知れない。
ブロックチェーン技術は問題を解決できるのか
平山郁夫、東山魁夷、片岡球子は故人ゆえに本人確認ができないため、東京美術倶楽部の「東美鑑定評価機構」で真贋鑑定されるのだが、一点あたり2万円ほどかかるようだ。
しかしながら、東美鑑定評価機構にとって現代アートは専門外であり、鑑定業務さえも行ってもらえないのが現状だ。
現代アートの版画の場合はプライマリー作品を取り扱うギャラリーか、作家本人に直接問い合わせをするしか方法はない。
また、版画は証明書を発行しないところもあるので、真贋は専門家の眼による判断となるのだ。
こうなると、ブロックチェーン技術を利用した証明書の発行やNFTアートのメリットが現実味を帯びてくるのだが、それについて考察してみたいと思う。
確かにデジタルアート作品の真贋はブロックチェーン技術によって第三者によって改ざんされることがないため、真作であることの証明になるだろう。
しかしながら、これはデジタル作品についてのみ言えることであり、その他のキャンバスや紙に描かれた作品などに言えることではない。
例えば、版画として既に流通されているセカンダリー作品については、ブロックチェーン技術によって真贋が分かる訳ではない。
ブロックチェーン技術はあくまで真贋が判明した後に、作品の証明書を改ざんさせないこと、来歴が追跡できることがメリットなのだ。
つまり、ブロックチェーン証明書を作る時点で贋作であれば、その贋作に証明書がずっと付いて回ることとなる。
ブロックチェーン証明書は作品を作家本人または販売代理となるギャラリーが真作として保証する場合に使われるのだ。
これまでの証明書の発行が紙からデジタルに代わっただけであり、そこでは改ざんされることなく来歴が追跡できる技術が追加されるということなのだ。
NFTアートの資産価値が上がるかどうかは作品次第
今年3月11日に、BeepleというデジタルアーティストのNFT作品がクリスティーズで75億円という高値を付けて以来、NFTアートの人気はうなぎのぼりとなった。
これまでデジタルアートは簡単にコピーできることから資産価値が付かなかったが、ブロックチェーン技術によって唯一無二の非代替作品、NFTとなってからは様相が急変したのだ。
NFTはイーサリアムというブロックチェーン技術によって作られるのだが、このイーサリアムによってETHAという暗号通貨が作られており、売買にはそのETHAが使われるのが一般的だ。
ETHAの価格はこの1年で10倍以上になっており、以前からETHAを保有していた人が高騰した資産をNFTアートに投資するという動きが高まって多くの作品が短期間で高く売買される事態となった。
しかしながら、暗号通貨を以前から保有していない人にとってはNFTアートの高騰はあまり関係のない話で、対岸でその様子を眺めているだけにすぎなかったのだ。
タグボートとしては、NFTアートをETHAという暗号通貨を持っていなくても、これまで通りタグボートのサイトからクレジットカードで購入できるサービスを9月30日にスタートすることとなった。
まずはタグボートが選出する5名のアーティストのNFTアート作品を販売するのだが、デジタルで保有することでは満足できない顧客のため、購入者がその作品のTシャツやトートバッグ、ポスターにすることができる使用許諾権を与えるサービスも始める。
それがアーティスト・サポートの一環として作家の価値上昇につながっていくことを望んでいる。
いずれにしても、アーティストとしての価値が上がらなければNFTアートの価値が上がることもなく、今年前半に発生したNFTバブルは長くは続かないだろう。
タグボートが国内ECで最初に始めたように、多くの方にとっての購入機会が広がることで、新たにNFTアートの価値付けが構築できればと思っている。