海外と日本とのベンチャー投資の違い
ベンチャーキャピタルなどによるスタートアップへの投資額はアメリカで年間約20兆円と言われている。
それに比べて日本の未上場企業への投資額は3,000億円と言われており、アメリカの1.5%程度だ。
30年前にはNTTをはじめ世界の時価総額ランキングの上位の多くを占めていた日本企業であるが、現在ではGAFAなどの巨大IT企業がランキング上位となることで世界を席巻しており、日本は見る影もない。
また、現在の日本の時価総額ランキング50位以内でこの30年以内に創業したのはエムスリーとZホールディングス(旧ヤフー)の2社だけであり、新興企業が発展しにくい環境になっているのだ。
日本は、積極的に株式投資をするよりも銀行の普通預金に預けるといった保守的な国民性も相まって、スタートアップのようなどれが当たるかわからないような投資にはあまり向いていないのかもしれない。
それで東京証券市場のような倒産しにくい上場企業が集まるところに人気が集中するのである。
これは、日本の現代アートにも似たような状況であり、いまだに美人画、写実画といった作品が人気であるといった旧態依然とした古い勢力が跋扈していることの証左でもある。
現代アートのマーケットの隆盛は、このようなスタートアップの投資市場の盛り上がりと共通しているのだ。
中国におけるスタートアップの投資も米国に負けず劣らず活発だ。
中国のベンチャーキャピタル投資額をGDP(国内総生産)で割った比率では世界でトップに立っている。
つまり、世界で一番ベンチャー投資に積極的な国だということだ。
中国の現代アートのマーケットが活発なのも十分に理解できる。
さて、ベンチャーキャピタルのようにファンドを組んだり、大型案件に投資をする以外にも、個人の投資家が少額からスタートアップ企業のシードステージ(会社設立したばかり)の時に投資をすることも海外では活発だ。
このような投資家をエンジェル投資家というが、エンジェル投資家の投資額についていえば、アメリカが2.5兆円に対して日本は200億円と、アメリカの0.8%の規模しかなく、ここからも日本人ができたばかりの会社に対する投資にいかに消極的かが理解できる。
ベンチャー投資とアート投資の酷似性
以前に著書でも書かせてもらったのだが、エンジェル投資家と起業家との関係性は、コレクターとアーティストとの関係性に近い。
もちろん、投資を意識せずに自身の部屋にマッチするタイプの作品やただ好きなだけで購入する人は多いだろうが、それでも購入後に作品の価値が上がるのはうれしいものだ。
アーティストのパトロンとして作家の将来を見込んで作品を買うタイプのコレクターはエンジェル投資家と同じような心理状態だと思われる。
アーティストも、自身の作家としての価値を上げることが支援してくれるコレクターの収集品の価値を上げることにつながるので、起業家が自社のサービスを強化することが株主の価値を上げることとよく似ている。
ただしアートの場合は、ベンチャーキャピタルのように5年以内に結果を求められることはなく、基本的に長期投資である。
価格が100倍になることは滅多にないが、5年で2倍くらいになることは普通にあり得るのだ。
そういう意味では、アート投資はスタートアップに対する投資よりもローリスク、ローリターンと言えるだろう。
また、スタートアップが倒産、廃業するのは、アーティストが作家としての生活をやめるのと同じようなことだろう。
つまりアーティストは途中で作家をやめると作品がセカンダリー市場に出ることがないので、交換価値が減少するのだ。
コレクターは作ることを途中でやめないような忍耐力のあるアーティストの作品を買うことが望まれる。
アート投資とは、スタートアップ投資とは似ているものの、すぐには見返りを求めない長期的な投資であり、コレクターがアーティストにアドバイスをすることなく静かに見守る投資と言えるだろう。
アートにおけるエンジェル投資家とは
一般的にスタートアップに積極的に投資をするエンジェル投資家の特徴として、過去に会社をイグジット(株式公開やM&Aによって株式を売却)した経験のある経営者が多い。
自分自身がベンチャー企業として成功した経験があるので、次に自分が事業を起こすときにも成功体験の有無がものを言うし、またスタートアップに投資をする上でも目利きになれるだろう。
そういった意味ではアートも同じように、アーティストとして成功している人が一人のコレクターとして作品を買う場合には将来的な価値が見込める作家を選ぶことができる可能性も高いだろう。
または、実際に価値の上がったアーティストを数多く近くで見ているギャラリストも同じであり、アーティスト個人の特性や作品をマーケットの反応を見ながらいち早く知ることができる。
もちろん、実際にエンジェル投資家として成功しているような方は、アート投資についても鋭い目利きでよいコレクションを形成することができるだろう。