女装した衣装の裾を引きずる(Drag)という意味から、Drag Queenという言葉が生まれた。
圧倒的な派手さで「女性」としての「性」をあえて強調して表現しているのだ。
ドラァグクイーンは、通常は見た目が男性であることが多いのだが、いざパーティー会場ではびっくりするようなド派手な格好をする。
「女性のパロディ」あるいは「女性の性としての表現を遊ぶ」ことを目的としていると揶揄されることもあるが、一方で、多様性を訴える団体で先頭を切っていくイメージでもある。
来週(2月9日)からタグボートの人形町のギャラリーで大山貴弘の個展が開催されるのであるが、彼はその「ドラァグクイーン」を題材にして作品を作り続けている。
その作品に需要があるのかといった理由で制作をしているのではないのだ。
大山貴弘は、前回のコラムで書いたのと同様に時代を反映させるアーティストの一人として戦っている。
特に現代のLGBTの問題に真っ向からアートで挑んでいる姿はたくましく映る。
さて、大山貴弘は作品を鑑賞した人々が、女装文化やジェンダーの多様性についての理解を得ることで、誤解や恐れがなくなる世界を望んでアーティスト活動をしている。
テレビや映画、ソーシャルメディアなどのドラァグクイーンの表現は、一般の人々にそれを正確に理解するには行き届かず、まだまだ偏見が多いのは事実である。
自由な表現を是とするアートにこそ、打開するチャンスがあるかもしれない。その一念で作品を作っているのだ。
日本という国は、メディアが作る「空気感」によって個人の行動が制限され、表現の自由においては欧米先進国に比べて周回遅れでまったく確立できていない。
性や宗教、政治といった世間の問題で表現をすると反感を買いやすいという理由で敬遠される運命にあるのだから、情けない限りだ。
日本人は争いを避ける典型的な集団文化であるのは間違いないのだが、アートだけはそういった文化からは遠ざけることができるサンクチュアリ(聖域)であるべきだと我々は思っている。
セクシュアルマイノリティに対する偏見や誤解は国内では根深いものがあり、まだ払拭されるまでには全然至っていない。
現段階の多様性への許容は、世間体を気にしたお仕着せのものでしかないのだ。
浸透させるには時間がかかるし、そのためにはよりアートを通した深い理解が必要なのかもしれない。
教育、露出、対話を通じて、多様性の理解度は少しずつ変わっていくことが期待される。
そういう時が来ることを期待して、大山貴弘の作品を所有することによってLGBTの問題に正面から向かい合っている若者を応援して頂きたいと思う。
個展を前に出品作品について語る大山貴弘
大山貴弘 Takahiro Oyama |
大山貴弘 「八百万の個性 – exploring the uniqueness of Japan’s diversity」
2024年2月9日(金) ~ 3月2日(土) 会場:tagboat 〒103-0006 東京都中央区日本橋富沢町7-1 ザ・パークレックス人形町 1F 東北芸術工科大学芸術文化専攻彫刻領域を修了した大山貴弘。”Drag Queen”(ドラァグクイーン)という主にゲイ男性による女装パフォーマーをモチーフにした、木彫作品を制作しています。このたび、tagboatでは初めて個展を開催いたします。 |