アート業界で仕事をするにあたり、勘と経験というものが幅をきかせており、ほぼこの2つでビジネスを回しているギャラリーは少なくない。
つまり、どの作家の作品を販売するか、顧客にどう販促するかをすべて勘と経験の中で行われているのがこの業界の実情なのだ。
従い、ギャラリーにスタッフとして入った人はオーナーの立ち振る舞いを見ながら勘と経験の中から仕事を覚えていくこととなる。
そうすると、寿司職人の修行とよく似たことになり、板場につくまでに何年もかかったりすることもあるのだ。
しかしながら、実際にはアートの仕事についてはそのような下働きなどする必要はなく、実戦を早めに積むことですぐに即戦力として働くことが可能である。
つまり、アートの業界においても、勘と経験による運営から、データを基にした運営に切り替えていかないといけない時代に来ているのだ。
現在のコロナ禍においても、データやエビデンスを基にした科学的な施策が行われずに、ワイドショーなどのメディアに先導されたイメージで施策が行われていることがある。
目の前に現れた数字に一喜一憂するのではなく、他との比較、データの相関性によって物事を判断しなければならないのはどこの業界においても大事であり、今回のコロナ騒動によってその重要性を感じている人も多いだろう。
本物の作品を見ることは経験よりも「アップデート」
アートの作品の良し悪しや目利き力には勘や経験が重要だというのは一般的な意見であろう。
確かに世界中のあらゆる一流の作品を直に見ることは重要であり、一流の作品の持つ力強さを肌で感じる経験を積むことは必要かもしれない。
ただし、それが過去の経験の積み重ねだけではあまり役に立たないのがアートの世界だ。
つまり、アート作品は常に新しいものを見続けていかなければ、その経験は作品選定にさほど役に立たない。
なぜかと言うと、アーティストは顧客ニーズに従って作品を作っているのではなく、作家自らが作りたいという衝動で制作をしているので、アートのトレンドはあくまで「作る」側にあって、購入者側にないからだ。
なので、これまでの購入者の傾向といった過去の経験の蓄積よりも、新しくインプットされる作品が何であるかを知る必要があるのだ。
アートの業界では、作家、作品選びはあくまでも情報をアップデートし続けることが重要なのだ。
顧客情報としてのデータ分析
展覧会では一人で何百万円と買う顧客が現れることもあるので、ギャラリーにとって展覧会の来場者数は関係なくて重要なのは来場者の質という人がいる。
つまりいたずらに来場者を増やすよりも既存顧客にきちんと対応をしてさえいれば、売上がついて来るということだろう。
来場者数ばかり多いと膨大な接遇に追われることや、そのために重要顧客への対応が薄くなったりすることを気にしているのだ。
もちろん、うまくいっているギャラリーにとっては、その段階では既存顧客に注力することが、「集中と選択」に徹していてうまくいくのかもしれない。
しかしながら、アート業界においても、このやり方はいつしか回っていかなくなるだろう。
例えば、ある一定の顧客数だけで売上の殆どを占めている場合、その顧客が他社を向いたときに売上がゴッソリ減るからだ。
今の顧客は以前の顧客層と違って移り変わりがしやすくなっている。
このことは先週のコラムでも書いているが、一本釣り手法は今の時代では確実に役に立たなくなっている。
つまり、常に新規顧客の開拓をしていかなければ、いつしか販売は立ち行かなくなるということを心していかねばならないのだ。
それだけではない。
ほとんどのギャラリーは自社のウェブサイトのデータ解析をしていないということも問題だ。
ウェブページにアクセスするユーザー数、ページビューといった数字を追うだけでなく、地域特性、どこから訪れたのかという訪問前の行動や、訪問後のページ遷移など分析できることは多い。
また、顧客数を増やすためには、ウェブサイトをチェックするだけでなく広報や広告の効果をチェックする必要がある。
特に広告については、費用対効果が本当にあるのかが分かりづらいメディアよりも、SNS広告やGoogleのリスティング広告のほうが外れが少なく、費用に応じた効果が測定できることは言うまでもない。
雑誌社との付き合いで広告を出すのではなく、将来の見込み客を狙ってその費用対効果をデータでしっかりチェックしていくことがこれからのアート業界でも普通になる時代が来るだろう。
今のコロナ騒動を反面教師として、これからのアートファンを増やすためには、物事をイメージでとらえるのではなく、きちんとしたエビデンスを基にした運営が我々に求められているのだ。