日本の現代アート市場は世界の1%しかない。
この事実を考えると、現代アートのジャンルを厳格に規定することは、国内アート市場をますます矮小化する原因となる。
実際に、国内のクリエイターたちの自由な活動を広く見渡すと、アート、デザイン、イラストの間には本来垣根がないことに気付くだろう。
例えば、「絵師」という職業があるが、これがアートに最も近い存在でありながら、そのモチーフが主に女の子に限定されているため、アート作品としての位置づけが限定的であることが多い。
絵師は主に二次元コンテンツ(アニメ・漫画・ゲームなど)に特化したイラストレーターであり、シンプルで個性的な女の子キャラクターを描くことに長けている。しかし、現代アートのジャンルとしてはまだ日本国内では広く認められていないのが現状である。
一方で、米国ではアンディ・ウォーホルのように、彼は広告デザイナーとしてのキャリアを始めながらも、アートとデザインの垣根を自ら取り払い、その結果として彼のファンを広げ、同時にアートマーケットを大いに拡大させた。
このような前例を考慮すると、日本の二次元コンテンツに特化した絵師がどこまでアーティスととしての地位を確立できるか、今後の展開に注目が集まる。
さて、現在タグボートのギャラリーで個展を開催しているMika Pikazo氏は、Twitterフォロワーが120万人を超える人気イラストレーターである。
彼女はイラストだけではなく、現代アートのジャンルでも勝負しているが、そこでアートの購入者が急速に増加している。これは、日本の二次元コンテンツが現代アートとしての認識を広げていく可能性を示唆している。
また、国内のアート界では、細かい手業による描写がすごいとか、美人画が得意とかいったような一芸に秀でたアーティストがもてはやされる傾向があるが、これからは多様な才能を持つ多芸なクリエイターたちが活躍できる土壌を育むことが重要である。
音楽、アート、イラスト、映像など、さまざまなジャンルで才能を開花させる環境が整えば、国内マーケットの拡大が期待できるであろう。
例えば、手島領はその一例である。
彼は多摩美術大学グラフィックデザイン科を卒業後、広告代理店の博報堂を経てデザイン事務所を設立し、ウェブサイトデザインや商品パッケージ、音楽系アートディレクション、空間デザイン、演劇・舞台・映画の宣伝美術、MVやライブ映像の演出や編集、アート作品展示、音楽セレクター、楽曲制作など、多岐にわたるジャンルで活躍している。
このようなマルチクリエイターが国内のアート市場を拡大し、変革をもたらすことを期待しているし、タグボートもその支援に努めていきたいと考えている。
さらに、技術の進化に伴い、新しい表現手法が次々と登場している。デジタルアートやVRアート、AIによる創作活動など、従来の枠にとらわれないクリエイションが盛んに行われている。
これらの新しい表現が、今後のアート市場にどのような影響を与えるかは未知数であるが、少なくとも既存のジャンルに縛られない自由な発想が新たな価値を生み出す可能性が高い。
日本のアート市場が今後成長していくためには、現代アートのジャンルに縛られず、多様なクリエイティブ表現を受け入れる姿勢が必要である。国内外で活躍するクリエイターたちの自由な発想と活動が、日本のアート市場に新たな風を吹き込み、さらなる発展を遂げることを願っている。