アート作品の販促には、アーティストそのものを知ってもらうことが最も重要である。
先のコラムでも申し上げたように、作品だけを持ってきてアートフェアに出品しても、海外であればなおさらその作家について事前説明がされていないと顧客には相手にされない。
展示作品が最初はまぐれ当たりで売れることはあっても決して長続きはしないであろう。
継続的に売れる仕組みを作るためには、効果的にメディアを使った販促活動が必要だ。
そこでは、コミュニケーションの質と量が極めて重要であり、そのたゆまぬ努力が大きな実を結ぶことにつながる。
実際にアートフェアでも現地でのメディアをうまく利用できているところは事前に顧客の心を掴んでおり、販売金額がある程度予想できるようにまでなっている。
その違いはどこにあるのだろう。
一般の方の購買決定プロセスとして、AIDMAという言葉は聞いたことがあるかと思う。
一般的な購入者は、その作品の存在を知り(Attention)、興味をもち(Interest )、欲しいと思うようになり(Desire)、記憶して(Memory)、最終的に購買行動に至る(Action)という購買決定プロセスを経ることが多く、一連の行動プロセスの頭文字がAIDMAとなっている。
最初にアートフェアに来てもらった段階で、取り扱いアーティスト存在を知っていて(Attention)、興味をもって(Interest )さえすれば、後のプロセスは比較的容易だ。
さて、AIDMAのうちAttentionとInterestの両方で特に現代アートにとって効果的なメディア活用のポイントは以下の3つである。
一つ目がわかりやすさ、もう一つが驚きがあること、最後にストーリーがあることとなる。
それぞれ順に説明していこう。
1)わかりやすさ
アートとはそもそも分かりにくい作品が多い。
アーティストの主観や思いで作られているため、その作品の持つ意味合いを言葉で説明するのが難しいからだ。なのでどうしても観念論だったり、冗長的な説明になってしまいがちだ。
そういうアーティストの作品に対し、ワンフレーズで小学生でもわかる単語で表現できることが重要だ。それをしつこく何度も念仏を唱えるかのようにキャッチフレーズ化することで、初めて分かりやすくなる。
アーティストが分かっているつもりでも他人から見るとよく理解できないことは多いし、別の人の言葉を介して表現したほうが分かりやすいことはよくあるのだ。
2)驚きがある
作品に対して何らかの驚きがなければ、振り向いてくれることはない。
アートフェアでは各ブースが10-20点ほどの作品を展示しており、どこもなるべく自社の作品が目立つように努力している。
従い、サイズでも2、3メートル以上のサイズ感がなければ目立たないし、色柄などでは勝負が不能だ。
どちらかというとその作品を見たときに「びっくりする」くらいのインパクトが必要である。
見かけでインパクトがなければ、その作品のコンセプトでびっくりさせる必要がある。
驚きを事前にメディアを通して知らせておくことで、その驚きは実際に会場で見たときに輝きを増すのだ。でないと、初見でびっくりさせる作品というのはアートフェアという会場ではよほどのことがない限りは難しいといってよいからだ。
3)ストーリーがある
アーティスト自身や作品にストーリーがあれば、顧客はその存在を覚えててくれる。
作品に分かりやすさや、驚きといった面では差別化ができない場合、そこに物語性があれば人の頭の中で記憶として残りやすいのだ。
心を打つストーリーをアーティストの生き様や、作品制作のプロセスの中で作り込んでいく努力が必要だ。それによって人づてに感動は伝えられやすくなり、後にも粘り強く残っていくのだ。
さて、上記のようなポイントでアーティストや作品について、SNSなどのソーシャルメディアや広報活動で何度でもしつこく伝えていかなければ人の記憶には残らない。
つまり伝えるには、その発信する絶対量が必要なのである。
同じことを何度も何度も発信することで、理解が深まっていくこともあるのだ。
日本の一般的なギャラリーはその発信の絶対量が不足しており、且つ、アジア圏において中国語で翻訳されたテキストもほとんどない。
中国語での発信は成長著しいアジアマーケットでは必須であるし、そこにこだわるところが他とは差別化できるであろう。
タグボートとしても上記の効果的なメディアの法則を大事にしながら、現地の人が理解しやすい言葉で大量に発信をすることで、実際の展示の段階で二歩も三歩も先を行っておきたいと思っている。