3月26~28日、世界的フェアであるアートバーゼルの開催にあわせて香港を訪れた。この時期はアートバーゼルの横で開かれるArt Central、M+ミュージアム(エムプラス)やTAI KWUNをはじめとする香港の世界的施設でもイベントが開催され、香港全土がアートに染まる。
2023年のアートマーケットにおける中国本土と香港をあわせたシェア率は英国を抜いて世界第2位となった。今や世界中のコレクターやアートファンから熱い視線が注がれる香港。その成長を続けるアートシーンの様子をご紹介したい。
復活を果たしたArt Basel Hong Kong 2024
昨年比37%増となる242軒のギャラリーが出展し、2019年以来の「full scale」となった。渡航制限も解除された今年は延べ75,000人が来場し、会場は終始アートの熱気に沸いた。
会場内はメインセクションとなるGalleries、アジアおよびアジア太平洋地域のアーティストに特化したInsight、新進アーティストを取り上げるDiscoveries、ブース内でテーマ別のソロ・プレゼンテーションを展開するKabinett、インスタレーションのEncountersによって構成される。日本からは以下のギャラリーが各部門で出展した。
▼Galleries:ANOMALY、オオタファインアーツ、カイカイキキギャラリー、KOTARO NUKAGA、小山登美夫ギャラリー、思文閣、シュウゴアーツ、SCAI THE BATHHOUSE、MAHO KUBOTA GALLERY、タカ・イシイギャラリー、Take Ninagawa、東京画廊+BTAP、Fergus McCaffrey、NANZUKA、MISAKO & ROSEN、MISA SHIN GALLERY、ミヅマアートギャラリー、ユミコチバアソシエイツ
▼Kabinett:Taro Nasu
▼Insight:√K Contemporary、Kosaku Kanechika、みぞえ画廊、rin art association、Standing Pine
▼Discoveries:WAITINGROOM
「伝統」と「前衛」が交差する香港
1970 年に設立されたアートバーゼルは、世界随一のフェアをバーゼル、マイアミビーチ、香港、パリで開催しており、各地域の特色を反映させた独自性が特徴だ。
香港は「伝統」と「前衛」が交差する場だ。歴史的背景から多様性に富んだ文化の基盤があり、今や香港はアジアのアートシーンを牽引する存在となった。他の地域からしてもアジアのマーケットにリーチするうえでも重要なハブであり、アジア太平洋地域と他地域を繋ぐ架け橋として機能している。
一流のコレクターが手に取る作品とは
昨年のアートバーゼルではテキスタイルアートが多く見られ、そういった「物理的な質量のある作品」がひとつのトレンドであったように思う。一方で今年は「これ」といったトレンドを目で感じることは無く、敢えて傾向を挙げるとすれば平面の作品が増えている程度に留まった。
しかし平面といえども、そのサイズ感は国内のフェアと大きく異なる。会場内のどこを向いても100号が小さく思えるような巨大な作品が並んでおり、マーケット規模の違いを痛感した瞬間でもあった。
バーゼルのレポートによれば、フェアを通して草間彌生やアイ・チョー・クリスティン、イ・ブル、アレックス・カッツ、キボン・リー、ポール・マッカーシー、シンディ・シャーマンといった金沢21世紀美術館や森美術館などでも展覧会が開かれたような著名アーティストの作品が大きな売上を上げたようだ。会場内にはピカソやマティス、ウォーホルにバスキアのような巨匠たちの作品も展示されており、改めてアートバーゼルというプレミア・フェアの力量を実感した。
見本市における先鋭的アートの役割
「作品を売り買いする場」においてInsightとDiscoveriesの存在はとてもユニークだと思う。この2つは個展という体をなしており、見せ方に拘っているギャラリーが多い。アートバーゼルという一流のコレクターたちが集まる場で、先に述べたような巨匠たちの作品と同空間でアートバーゼルがこのようなエリアを設けるのは何故だろうか。
その答えのひとつに「アートの持つ役割を担保すること」があるように思う。同フェアのディレクター、アンジェル・シヤン・ルーはアートバーゼル香港を「新しい芸術と出会うための、そして対話し、異文化交流とコラボレーションのためグローバル・プラットフォームだ」と語った。また「もし午後1時間だけ会場に行けるとしたら何をするようアドバイスしますか?」という質問に対して「歴史的な作品からサイトスペシフィックなプロジェクトまで展開するInsightを見てもらいたい」と回答した。
単なる見本市ではないことを体現し支えているのがまさにInsightとDiscoveriesなのだ。2025年以降、Discoveriesには新進アーティストの支援と新たな才能の育成を目的に、新たな賞が設けられることが発表された。業界全体にダイナミズムを巻き起こすような骨太さを持ちマーケットに直結する先鋭的な作品をアピールする姿勢こそアートバーゼルがプレミア・フェアたるゆえんであるように思う。
tagboatが成すべき役割とその内容とは
この4月末には「tagboat Art Fair 2024」が開催される。「作品は見るもの」という認識が根深く残り「作品を買うこと」が特別視される国内の現状のなかで、タグボートが大切にしている要素として「分かりやすさ」がある。そしてその為に必要なのが「アーティストひとりひとりの空間」であり、もうひとつが「対話」だ。
アーティストごとの空間を設けることで、来場者はアーティストの世界観を目で感じ取ることができる。さらに、その場にはアーティストがいる。小難しいことは考えずにぜひ対話をして欲しい。今年のタグボートアートフェアではアーティストトークも企画している。「何を見てどう感じたか」「何を考えてこの作品を作ったか」こうしたシンプルな会話が日本のアートシーンにはまだまだ足りていない。アーティストから直接聞く言葉は、興味を抱いた作品を特別なものにしてくれるはずだ。
日本のアートマーケットは発展途上だ。世界の市場が7兆円であるのに対し、国内はわずか4%にあたる2263億円に留まっている。だからこそ多くの可能性に富んでいることは明白だ。ギャラリーの名前にあるように国内のアートシーンを盛り上げ、開拓していく存在のひとつとして4月のタグボートアートフェアに是非ご期待いただきたい。
【tagboat ART FAIR 2024】
4月26日(金)16:00~20:00 ※26日はご招待のお客様のみご入場いただけます
4月27日(土)11:00~19:00
4月28日(日)11:00~17:00
〒105-7501 東京都港区海岸1-7-1 東京ポートシティ竹芝
東京都立産業貿易センター 浜松町館 2F,3F
JR/東京モノレール 浜松町駅(北口)から徒歩5分
ゆりかもめ 竹芝駅から徒歩2分
都営浅草線/都営大江戸線 大門駅から徒歩7分
1,500円
公式サイト
https://www.tagboat.com/artevent/tagboatartfair2024/
高橋 佳寿美(Kazumi Takahashi)
千葉県出身。
日本生命相互保険会社、エムスリー株式会社を経て、2021年よりタグボートでディレクターとして従事。
タグボート代表の徳光健治による初の著書「教養としてのアート、投資としてのアート」はこちら