コレクターの質が作品の質を上げる
ワールドカップを見ていて思ったことだが、日本のサッカーがここ二十年で強くなったのは海外で活躍している選手が増えたことであると言ってよいだろう。
今から29年前のドーハの悲劇でワールドカップの初出場を逃したときは、海外で活躍している現役選手は皆無だった。
重要なのは個々の素質ではなくて海外の一流選手との試合における経験値であると言って間違いない。
これはアート界にも言えることで、海外におけるマーケットの状況を現地で見て知っているかどうかの違いは大きい。
アーティストが海外に出て武者修行を積んだほうがよいのは言うまでもないが、アートを買うコレクターについても同様に海外のマーケットの実情を知っておいたほうが良い。
日本のコレクターは自国の状況しか知らないことが多く、単純に「日本人は欧米人に比べるとアートを買う人が少ないよね」くらいの理解で終わっている場合がほとんどだ。
国内の現状だけを鵜呑みにして、コレクターがいつまでも同じような作品を買い続けると作る側のアーティストも成長しないのだ。
欧米を知ることがより重要に
コロナ禍が始まって3年が経過し、欧米とアジアの経済活況度の違いが明確になった。
欧米では年初から春にかけてコロナ問題を終結させており、いまやメディアも報道しないしマスクをする人は誰もいなくなったことはご存知だろう。
一方、日本や中国などの東アジア諸国ではいまだにコロナ禍を引きずっており、閉塞感が続いている。
これはアジア圏のコロナ対応の問題だけではなく、アジア人の持つ弱点がコロナ禍で露呈されたということである。これまでのアジアの経済成長によって弱点の部分が隠れていただけなのかもしれない。
いずれにしても、欧米との経済格差が広がると、一方で円安による日本人アーティストの作品が格安に見えるので販売のチャンスだ。
しかしながら、その日本人アーティストの作品のクオリティが海外ではまだ十分に認知されていないのが実情だ。
コロナ禍を引きずっている間にいまや日本人アーティストが「蚊帳の外」に追いやられた形となっている。
今年の欧米のアートフェアでは日本の出展ギャラリーが少ないだけでなく、日本人アーティストもほとんど出品されて見ることがない。
英語に翻訳された作品に関するコンテンツが少ないことも相まって、コロナ禍でますます海外メディアへのアプローチも弱くなっており厳しい状況は続いている。
さて、日本のアートマーケットを俯瞰的に見てみると最近のオークション市場は活況のように思われるが、アニメ系のイラスト作品が高値で売買されている実態は欧米の市場の現況とは大きくかけ離れている。
まさに日本だけがガラパゴスの様相となっており、一方で欧米で人気のアーティストが日本国内のオークションで安く落札されていたりするのだ。
世界のアートマーケットの進行が急速に変化していることにわれわれは気付く必要がある。
欧米の顧客はアーティストが作る同じような作品に飽きるのが早く、他の新しいものを常に欲しているのだ。
世界のアート市場における群雄割拠がより激しさを増していることをアーティストはもちろんのこと、購入するコレクターも意識する必要があると言えよう。
同じような作品を制作し続けるアーティストは厳しくなる
これからはコレクターも世界標準を知らないと厳しい状況になることは免れないだろう。
国内のみで評価された作品を買い続けることが将来的にリスクになるかもしれないのだ。
海外、特に欧米のアートフェアを定期的に見ておかないと世界ではどのような作品が評価され売れているのかを理解できずに珍妙なコレクションばかりを集めてることに気付かないことが起きてしまう。
こういったコレクターの状況はアーティストにも確実に飛び火する。
コレクターが進化しないとアーティストは同じ作品を作り続けても売れてしまうので、その状況に安心してしまうのだ。
世界の動きに機敏に対応できるアーティストでなければ生きていけず、それにはコレクター自身の変化も関わってくるのだ。
コレクターの意識として世界の一流の作品を見る「質と量」が重要であり、それがその地域のマーケットの動向を決定するいってよいだろう。
アーティストもコレクターが求めるクオリティに追いつかなければ買ってもらえないという緊張関係があるほうがよい。
生ぬるい世界は居心地がよいかもしれないが、そこではいつまでも売れないアーティストがはびこる場所となるのだ。
アーティストが食べていける環境を作るためには、コレクターも勉強が必要であるし、お互いの切磋琢磨があってこそ成り立つものだと我々は思っている。