プチアートバブルの終焉
先日のSBIアートオークションは、落札率は90%と高かったものの、落札総額が2億8600万円にとどまる結果となった。
出品作品にエディションが増えたことが全体の総額を下げた要因であるが、シルクスクリーンやデジタルプリントによる作品が市場に溢れてきたということだろう。
また、ロッカクアヤコの3,000万円~5,000万円のエスティメートが付いていた40号の作品が不落札となるなど、これまで急騰してきた高値の作品にストップがかかったということが今回のオークション結果で特筆されることである。
先日のサザビーズ・ニューヨークのイブニングセールも落札率は92%であったが、エスティメートの高値を超えて落札されたのが全体の20%程度であり、昨年と比べると状況は芳しくはない。
これは次第に崩れかけている欧米のアート市場の潮流が日本にも影響しているという見方が強い。
国内と海外ではアート市場ではあまりにも差がありすぎることや、欧米では物価高に応じて人件費が高くなっているが、日本は物価が高いわりに人件費が上がらず、さらに増税懸念もあるという悪循環に陥っている。
ニューヨークがくしゃみをすると日本が大風邪をひくこともありえるだろう。
また、日本のオークションでは国内特有のガラパゴス的な作品が高騰しており、クリスティーズやサザビーズといった国際的オークションハウスとは取り扱っている作風が異なっている。
バスキア、クリストファー・ウール、リチャード・プリンス、シンディー・シャーマン、ウォルフガング・ティルマンスといった国際的オークション市場で人気のアーティストのオリジナル作品が国内のオークションに出てくることはないし、一方でKYNE、バックサイドワークス、LYといった銘柄の作家は海外のオークションにはほぼ出てこない。
海外と国内のオークション市場にも共通しているのは、奈良美智、草間彌生、村上隆、杉本博司といった巨匠であることは10年前から変わらない状態なのだ。
景気後退期に必要な展開
コロナ禍から早々に脱却した欧米では2021年以降にアート作品が高騰したことを受けて、日本にもアートのミニバブルが発生していた。
それは一部の熱狂的な投資目的のファンによるものであり、セカンダリー市場がそれを牽引する形で数百万円~数千万円の作品が短期間でさかんに売買されてきたがが、これもすぐに厳しくなるだろう。
特に、欧米の国際市場で評価がされていない作家の作品を高値掴みをしてしまったコレクターがセカンダリー市場に対して大量に作品を放出してしまうと値崩れが生じてしまう懸念がある。
一方、安かった時代の作品を持っていたコレクターからすれば、「売り」のタイミングが到来したということであり、作家がまだ世の中に知られる前に買ったことによる先行者利益を得るチャンスなのだ。
これはどういうことかというと、市況が悪くなる時こそが作品の仕込み時であり、そこから5年~10年経ってマーケットが活性化されたバブルの時に売るのが賢明なコレクターだということだ。
ZOZO創業者の前澤友作氏のように自らバスキアの相場を上げるようなスーパープレイは常人には出来ることではない。
我々ができることとしては、価格がまだリーズナブルなタイミングで10-30万円の大きめのサイズの良作を買うことだろう。
千載一遇の機会を逃すな
景気後退はイノベーターに3つの機会をもたらすと言われることは、歴史によって示されている。
不況期こそ革新的な製品やサービスを提供するスタートアップが飛躍することができるときなのだ。
たとえば、2008年のリーマンショックの世界金融危機においては、UberやAirbnb、Slackなどの企業が新興企業として成長し、今では世界的な企業として知られるようになった。
これらの企業は、従来の業界に対して新しいアプローチを提供することで成功を収めたとされている。
このように景気の停滞期に新しいサービスをもった新興企業が生まれるようなことが、アートにおいても同じことが起こるだろう。
実際にイギリスで発生した高いインフレ率、失業率の上昇、産業の衰退などの経済的な問題「英国病」が発生した時期にダミアン・ハーストをはじめとするヤング・ブリティッシュ・アーティスト(YBA)と呼ばれる新しいアーティストたちが活躍したのである。
彼らが成功を収めた背景には、いくつかの要因が考えられる。
まず、1980年代のイギリスは、政治的・経済的に混乱していた時期であり、このような状況下にあって、若いアーティストたちは従来のアートの枠にとらわれない、斬新な表現を追求することで、新たなアートムーブメントを創造することができたのだ。
1990年代初頭には、イギリスではYBAによる大規模なオークションや美術館の展示会が開かれ、多くのアーティストが注目を集めることができたし、彼らが作品を発表する展覧会は、若者たちを中心に大きな話題となり、新しいアートムーブメントを牽引する存在となったのである。
タグボートとしてはこのような千載一遇の機会を逸しないように、次週よりこれから新たなるイノベーションを引き起こしそうなアーティストを作品からひも解く形で紹介していきたいと思う。
ご期待頂きたい。
タグボート代表の徳光健治による二冊目の新刊本「現代アート投資の教科書」を販売中。Amazonでの購入はこちら