前回のコラムでは、アート市場を活性化させようとすれば市場の中で価値の交換をするアーティストとコレクターのそれぞれに対する施策が必要であることを説明した。
今回のコラムではより具体的に、日本のアート市場が欧米のように繁栄するにはどのような仕掛けをすればよいのかについて考察したい。
まずは、欧米のアート市場が繁栄している理由を知るためには、アート市場の生態系を理解する必要がある。
つまり、欧米にはアート市場が継続的に拡大し続ける機能が備わっており、それがなければ日本のアート市場は一時的なブームが広がってもすぐに終わってしまう可能性があるのだ。
昨年からの国内のアート投資ブームはまだ始まったばかりであり、もしこれが短期間に収束してしまえば、拡大し続ける世界のアート市場から置いてけぼりを食らうことになる。
一過性のブームにならないためにも、我々はまずは欧米のアート市場がどのように有機的に機能しているかを知らなければならない。
アート市場の生態系
生態系とは市場の中で価値をやりとりして循環させる構造のことを指す。
生態系はプレイヤー同士が相互に価値をやりとりしたりコミニュケーションをする中で成り立っていくのだ。
プレイヤー同士のコミュニケーションが活発であるほど生態系は強固になり、持続性が高まることとなる。
さて、継続して拡大基調にあるアート市場では、市場の中に存在するプレイヤー(アーティスト、コレクター、ギャラリー、美術館、メディア、オークションハウス)の相互関係が有機的に結びついている。
例えば、ギャラリーが推しているアーティストをメディアが取り上げ、同時期に美術館での展示とオークションハウスで売買をすることで作家の価値を意識的に上げるということが欧米では普通に行われている。
コレクターは、メディアが取り上げるタイミングと美術館での展示やオークションハウスでの販売時期を事前に知ることで、当該のアーティストの作品を前もって購入することで高い確率で作品の価値が上がることとなる。
これが証券取引市場であればまさにインサイダー取引となるのだが、アート市場の場合はそのような規制や取り決めがないので、重要な内部情報を持っているプレイヤーが事を有利に運ぶことができるのだ。
特に米国の場合は、ニューヨークを中心とした貴重な情報をユダヤ系のディーラーが握っており、各プレイヤーが意識してアーティストの価値を上げる動きからマーケットの拡大が進んでいる。
つまり、このようにプレイヤーが有機的に結びつくことでマーケットの全体量が拡大し続けていけば、すべてがWin-Winとして回っていくのだ。
また、アート市場は株価や不動産のような巨大な資産運用マーケットの市況に影響されるため、市場に資金がジャブジャブと余っている状況ではアートのプレイヤー達は強気に作品価値を上げることに向かっていく。
つまり、アート市場の生態系は金融市場の生態系に準じており、資本主義の成長に合わせてアート市場も活性化しているのだ。
情報の可視化が必要
このように、欧米のアート市場は当初ユダヤ系のディーラーによって資本主義的なマーケットが作られ、それが金融市場の好不況に影響を受けながらも徐々にマーケットが拡大し続ける生態系が確立している。
ここでいう資本主義的なマーケットとは、アート作品を投資対象として、それに関わるプレイヤーが意識的に作品の評価を上げる活動をすることで全体での価値上げがなされることを言う。
つまり、プレイヤーが全員が能動的にマーケット拡大に関わっているということであり、それぞれがもつ役割を認識してお互いに連携しているのだ。
その裏の役割りをユダヤ系のディーラーが作り全体のパイを押し上げることが自然に出来上がっているのだ。
このような生態系を作ることは子供を育てて独り立ちさせていく行為に近いとも言えるだろう。
生態系がうまく成長していく状態を観察して、必要であればテコ入れを定期的に行っていくのだ。
中国のアート市場の場合は、華僑がユダヤ系のディーラーの役割りを担うことでマーケットの拡大につながっており、欧米同様に市場を先導する役割が決まっている。
一方、日本の場合は、まだアート市場の生態系を作ることを目的とした意図的且つ意識的な動きが見られない。
我々が日本のアート市場の「世界を変える」とすれば、プレイヤー自身が意識的に生態系の構造を変えるようにしなければ進化することはないだろう。
生態系は流動性が高いほど活性化するので、情報が可視化された世界で広がっていく。
クローズド化された社会では生態系の発展は見込めないのだ。
作家個人のプロフィールや作品の価格など、情報がつまびらかになることが市場の拡大につながることを各プレイヤーが認識することから新しい未来が切り開かれることを期待したい。