ギャラリーがアーティストの作品を取り扱うことの意味は、プロモーション活動をアーティストと二人三脚で行うことであり、芸能プロダクション的な役割を負うことと似ている。
ギャラリーはアーティストの才能にかけて一緒に応援していく立場なのだ。
とはいいながら、国内にあるギャラリーの80%は展示場所を貸すだけのレンタルギャラリーであり、作品売買をメインとしたコマーシャルギャラリーは300軒程度しかない。
コマーシャルギャラリーの平均的な取り扱い作家数が20名とすると、20名×300軒=6千人くらいがギャラリーに所属できるアーティストの上限となる。それに対して、実際の国内のアーティスト(自称を含む)は10万人もいると言われており、そうなるとコマーシャルギャラリーに所属できる確率は6%しかないことになる。
つまり、ほとんどのアーティストはギャラリーに所属せずに自身でセルフプロデュースしなければならず、ギャラリーの取り扱いになるまではサポーターとなるコレクターの存在は絶大だ。
しかしながら、日本にはコレクターがアーティストの初期キャリアを応援する仕組みや環境が存在しないのが現実である。
ところで話は変わるが、日本の芸能プロダクションで成功している大手と言えば、ジャニーズ事務所、吉本興行、そしてAKB48である。
これら大手の芸能事務所に共通する特徴は、素人の段階から自社でタレントを養成していることである。
まだどうなるか分からないツボミの段階からスカウトして、次のスターへと育て上げる仕組みのようなものが出来ているのだ。
一般的に海外の芸能プロダクションは養成するスクールとプロダクション事業は別扱いなのだが、なぜか日本は芸能事務所が若いうちから養成して抱え込んでいくスタイルが強みとなっている。
従い、日本は芸能事務所を移籍することは海外と比べると少なく、ずっと同じ事務所に在籍となることが多い。
これがいかにも日本的であり、且つ組織内でのタレントで先輩、後輩といったヒエラルキーが成立する所以だろう。
実は日本のアート業界にも少し似たところがあり、ギャラリーを移籍する作家は少なく、同じギャラリーにずっと所属して展覧会を続ける場合が多い。
しかしながら、育成部分についてはアート業界には何か組織のようなものはなく、美術大学自体もその役割を担っていないのが現実だ。
今後、日本のアート業界においても組織そのものがアーティストを養成することになるのかもしれないと思っている。
実はタグボートが今後力を入れていきたいと考えているのはこの分野であり、美大在学中または卒業してすぐの学生、または美大に関係なく若いうちからアートを生業として考えているアーティストのキャリア支援に積極的に取り組んでいきたいと考えている。
養成するのはアートの制作手法ではなく、どのようにアーティストとして生きていくかといった、具体的にプロになるまでの道を一緒に歩むためのノウハウである。
もちろん座学だけではどうしようもないので、アーティストには海外での展示も含めて様々な機会を与えていきたいと思う。
その中で頭角を現す作家が一人でも多く増えていくことを望んでいるが、実はスターを作りだすことには興味がない。
数億円稼ぐ力のあるアーティストはどんどんタグボートから海外のギャラリーに出ていって活躍をしてほしい。
そういうアーティストが継続的に出現するための下地を作ることこそが我々の宿命だと思っている。
ギャラリー取り扱いになれない数万人のアーティストすべてを救うことはできないが、才能があるのに埋もれてしまっているアーティストは少なくない。
その才能を発見し、磨き上げる仕組みをコレクターと作っていきたいとタグボートは考えている。
米国や中国などと比べると極端に小さな日本のアート市場を少しでもキャッチアップするためには、このようにアーティストの持つ才能を初期の段階からコレクターが楽しみながら買う仕組み、そしてその作品の価値を着実に上げていく仕組みをも作っていかなければならないのだ。