前回のコラムの続きの話となるが、アーティストが世の中のコレクターのニーズを把握し、それを自らの作りたい作品と一致させるのは決して簡単なことではない。
アーティストとしての戦略を考えている人は少なく、ほとんどの場合は世間のニーズがなんとなく理解できたとしても、それを売る方法さえ知らないことのほうが多い。
アーティストは戦略を考えるのが苦手だったり、そんなことよりもまずは制作すべきだとして何も考えずに作り続けた挙句、やはり売れないという結果になることがほとんどだ。
それをどのように克服したらよいのだろうか。
サポートするコレクターの立場でも考えてみよう。
アーティストは自らの強みを自身が知らないことがよくある。
従い、第三者からの評価や見方が当たっていることもあるのだ。
自身を知るために自分の内面に問い直してみても、実は思わぬところできちんと自己分析が出来ていないことがある。
自分が何がしたいのか、何を作らなければならないのかをちゃんと理解しているのがベストであるが、本人が正しいと信じていたことが外から見ると滑稽に見えることも実は多々ある。
もっというと、そもそもアーティストに向いてないことに気が付いていないアーティストも結構いるのだ。
これは作家活動は他の干渉を受けずに一人で行うことが影響している。
作ったものに対して誰からも文句は言われたくないし、好きなものを作り続けたいのだろうが、そうなると世間評価とは違うところにとどまってしまうこともあるのだ。
では、作家が作りたい作品と世の中のニーズとの乖離を減らす方法であるが、以下のような解決方法を考えてみたい。
ひとつの解決策は、アーティストのコミュニティを作ることだ。
アーティストのコミュニティでは、世の中のニーズの情報を受けながら、同時にコミュニティの仲間からの叱咤激励と制作の切磋琢磨をすることができる。
米国のニューヨークなどではすでにアーティストのコミュニティが存在している。
一定の地域にアーティストが住んだりアトリエを構えることで横のつながりを作ったり、共同でスペースを借りて展示をしたりしている。
独りよがりの発想では悲劇しか生まないため、多くのアーティストが仕入れた情報や考え方を共有することで、自分が作りたい作品の幅を広げたり、世の中のニーズの範囲を広くとらえたりすることが出来るようになるのだ。
アーティスト・イン・レジデンスの活用なども賢いやり方であり、そこで結びつくコミュニティがアーティストとして生き抜くための知恵を授けてくれることもあるだろう。
日本にはこのようなコミュニティはまだ少なく、組織として成り立っているのは数えるほどしかない。
あったとしても制作したものを一緒に展示する仲間が集まっているくらいで、そこでは情報共有や切磋琢磨できる環境にまで育っていないところがほとんどだ。
しかし逆に言うと、そこはチャンスでありタグボートも独自の新しいアーティスト・コミュニティを作りだす機会があるということだ。
タグボートがいま考えているのは、アーティストのコミュニティをバーチャルとリアルの両方で作ることであり、それも数百人から数千人のレベルで出来ないかと思案している。
コレクターともつながっているので、顧客のニーズをリアルタイムで詳細に把握しており、そのデータや最新情報を開示することも可能だ。
また多くのアーティスト同士がつながることで、制作する作品の媒体や技術、やるべきことのヒントも提供できるかもしれない。
このようなアーティストのコミュニティをきちんとした組織として作ることも我々の責務でもあり、単純にアート作品を売る企業だけではないパブリックなサポートをもやっていきたいと考えている。