人気という火は、風まかせ
アートの世界にも“流行”という風が吹く。
ある日、どこからともなくその風が吹き始めると、今まで静かだった作家の作品が、まるで花火のようにパッと売れ出すことがある。
「この作家、すごい!」と誰かが言えば、次から次へとその声が広がっていき、気がつけば完売続き。
そんなブームが、まるで夏祭りのように賑やかにやってくる。
でも、夏祭りが終われば、屋台も片付き、人々も帰っていく。同じように、ブームもいつか終わる。
あれほどにぎわっていた人気も、静かに潮が引くように、気づけばファンの姿が見えなくなる。
これはアートに限らず、音楽でも、ファッションでも、どんな世界でも起きうることだ。
同じ歌を何度も聴くと?
たとえば、あなたが大好きな歌があるとしよう。最初は夢中で聴いていたその曲も、100回、200回と聴き続けるうちに「そろそろ別の曲が聴きたいな」と思うようになるかもしれない。
アートも同じで、どれだけ魅力的な作品でも、同じテイストの作品ばかりでは、見る人の目も少しずつ慣れてしまう。
「飽きられた」というよりは、「次を見たくなる」のが人間の自然な感情である。
だからアーティストも、同じ場所にとどまるのではなく、新しい風景を見せる必要があるのだ。
だがそれは簡単なことではない。気まぐれな風に乗るのではなく、自ら帆を張って風を探しに行くようなものだからだ。
ファンは畑、育てるのが仕事
アーティストにとって、ファンは“畑”のような存在である。畑が広ければ広いほど、実る果実も多くなる。
作品を100人に見せれば1人が買ってくれるとしたら、1万人に見せれば100人がファンになる。これは単なる数字の遊びではない、現実の話である。
ではどうやってその“1万人”に作品を見てもらうか。
ここにこそ、アーティストの知恵が問われる。SNSで作品を発信するのもいいし、イベントや展示に出るのも大切だ。
とにかく、「見せる」ことが第一歩。作品を部屋の中にしまっているだけでは、誰の目にも触れない。それでは畑に種をまかずに「実がならない」と嘆くようなものだ。
賞よりも、ファンの拍手を
「どんなに立派な賞をとっても、作品が売れなければ生活できない」。これは多くのアーティストがぶつかる現実である。
美術界には多くのコンペや公募展があり、受賞歴が作品に箔をつけることもある。しかし、それ以上に大切なのが“ファンの存在”である。
ファンは作品を買ってくれるだけでなく、SNSで拡散し、友達に紹介し、作家の活動に力を与えてくれる。
つまり、アーティストの“応援団”なのだ。プロ野球選手がスタジアムの歓声に背中を押されるように、アーティストもまた、ファンの声で次の作品に向かって歩き出す。
今は「自分を語る」時代
昔のアーティストは「作品を作るのが仕事」で、それ以外のことはギャラリー任せ、という時代もあった。
まるで料理人が料理だけを作って、接客は全てホールスタッフに任せるようなイメージだ。
しかし、今は違う。SNSという「大きな舞台」が誰の手にもある時代になり、作家自身が“自分を語る力”を求められるようになった。
作品だけでなく、「どんな人が作っているのか」「どんな思いで作ったのか」が重要なのだ。ファンは、アーティストという“物語”ごと応援したいのだ。
売れ続けるための“総合力”
今の時代、ただ絵を描くだけではプロのアーティストとは言えない。そこに必要なのは“総合力”である。
作品の魅力、発信力、ファンとの対話力、そして社会を広く見る知恵。それらすべてが重なってはじめて、「この人の作品を買いたい」と思われる存在になる。
そしてアーティストが一人で立ち続ける時代も、終わりに近づいている。
ギャラリーやコレクター、ファンが一緒になって「この作家を支えたい」と思えるチームが必要だ。
アーティストはその“中心”で、信頼を集めながら進んでいくのだ。
アーティストが売れ続けるというのは、一本の木が四季を超えて花を咲かせ続けるようなものだ。
土を耕し、水をやり、風に当て、時に剪定し、そしてまた育てる。その手間ひまこそが、長く愛される作家への道なのである。