先週、先々週にわたってアーティストのインキュベーションについてコラムを書いてきたが、今回はこれまでタグボートが行ってきた具体的なインキュベーション事業について説明したいと思う。
タグボートはこの14年間で様々なアーティストのインキュベーション事業をやってきたが、その中で現在も続けてやっていることとして、「Independent Tokyo」というブース型のイベントがある。
以前はタグボートアワードという公募展を実施していたのだが、作品1点のみで審査する難しさがあるのと、現在は他にもギャラリストを審査の中心とした公募展が多く開催されていることから、タグボートは昨年よりアワード開催を見送り、Independent Tokyoのみに絞り込むこととした。
さて、そのIndependent Tokyoであるが、そもそもの源流は村上隆率いるKaikai kikiが開催するGEISAIというイベントをタグボート流に改編したものであり、2008年にYoung Artists Japanという名前で始めて現在に至っている。
タグボートのアートイベントに比べてGEISAIは出展者の年齢が低く、ブースも展示壁がないものがほとんどなのでイーゼルに作品を置いたり、手作りによる壁で展示する場合が多く、学園祭的な雰囲気となっている。
それに対して、プロを目指す作家をギャラリストが選出することを目的とするIndependent Tokyoでは展示壁は必ずつけることにして統一感を作り、素人っぽい見え方を排除しようとしている。
Independent Tokyoはこれまでも、未来の売れっ子となるプロのアーティストを輩出する機能を果たしてきた。
2009年には木彫作家の金巻芳俊、2010年には小松美羽と石川美奈子、2012年東城信之介、2013年はキングコングの西野亮廣、麒麟の川島明、2016年 さいあくななちゃん、川人綾といったように、今をときめくアーティストから芸能人まで数多くの作家が参加してきた。
2017年以降も、佐藤誠高、榎本マリコ、京森康平、山口真人、奥田雄太といった人気アーティストが活躍する登竜門となっている。
Independent Tokyoがこれまでこだわってきたのは、アーティストとギャラリストとを直接結び付ける仕組みであり、実際に会期中に審査員であるギャラリーが参加アーティストに展覧会へのオファーを提示することも多い。
もちろん、タグボートもここから多くのアーティストをセレクトして自社の取り扱いアーティストとしている。
現在、阪急メンズ東京で個展開催中のオオタキヨオや3月10日から個展開催予定のフルフォード素馨もIndependent Tokyoの出身者である。
Independent Tokyoで学ぶべきこと
Independent Tokyoでアーティストが学ぶべきことは、展示の方法とコミュニケーションの2つだ。
例えば、同じ作品を展示するにしても、展示の良し悪しによって作品の見られ方がずいぶん違うことをまずは知ってもらいたい。
壁一杯を使って小作品を埋め尽くすような展示の場合、アーティストの表現力を見る上でプロのギャラリストからの評価は低くなってしまう。
どちらかというと、大型作品やインスタレーションによる1点勝負のほうが、アーティストの世界観が分かりやすいというメリットがある。
ギャラリストは作った作品のすべてを見たいのではなく、渾身を込めた珠玉の一点を見たいからだ。
また、展示しない壁の余白の使い方はアーティストのセンスが出るので、ぎりぎりまでどのような展示にするかについて作品を絞り込んでいくことが重要だろう。
さらに出展アーティストは自身とそれ以外のアーティストとの展示方法を比較することで、どのような展示がよいかを会場で学習することになるだろう。
さて、コミュニケーションもアーティストにとって重要でありIndependent Tokyoで学べることのひとつだ。
コミュニケーションと言っても対人への話術がうまいということではない。
それはごく一部であり、それよりも自身が作った作品の世界観をどのように世の中に伝えるかというコミュニケーションのほうが重要なのだ。
アーティストには話下手な人は多いのだが、今では文章や画像、動画などによるSNSの発信で自身をプロモーションする方法はいくらでもあるので、コミュニケーション手段には事欠かないだろう。
特に大型イベントでは出展するアーティストがこぞって自己プロデュースするので、その中でどれだけ自分の作品を知ってもらえるかは競争になる。
このように、体験的にプロのアーティストを目指すための方法論を学ぶところがIndependent Tokyoであり、そこで作家とのコミュニケーションを通して、ギャラリストが作家をセレクトする仕組みが出来上がっているのだ。
昨年のIndependent Tokyoはこちら
https://www.tagboat.com/artevent/independenttokyo2022/