アーティストとギャラリーとの正しい関係というものについて考えてみたい。
それぞれのギャラリーの特徴などがあるのでこれが正しいというものはないと思われるが、一番重要なことは「対等な関係性」を持つことである。
しかしながら、この対等な関係性というのがもっとも難しいのだ。
特に、自由に作品を作りたいとするアーティストと、売れる作品を取り扱いたいとするギャラリーとの間には意識のギャップがある。
一方、作家によい作品を作ってもらい、その作品の価値上げをしたいということについてはアーティストもギャラリストもお互いに同じ考えであろうし、その「よい作品の価値上げ」に共通する価値観を強化していくことが望まれるだろう。
ギャラリーの責任と裁量
さて、日本が海外と比べると異なる特徴といえば、アーティストが最初に取り扱いとなったギャラリーと終身雇用のような関係を結んでいることが多いことであろう。
国内ではアーティストが色んなギャラリーを渡り歩くということが少なく、人気や価格が上がっても同じギャラリーに所属したままの場合が多い。
ギャラリーがアーティストを長期にわたって取り扱いをしたいがために、あえて作家を持ち上げてることも多い。まだ美大を卒業したばかりのアーティストに「先生」と呼んだりするギャラリーもあるくらいだ。
アーティストとギャラリーとはあくまで仕事を通しての関係であり、お友達ではないし、ギャラリーはアーティストの作る作品を売ることで価値を上げることが主な仕事であることは間違いない。
一般的にどうすれば価値が上がるかというと、著名な美術館で展示したり、賞を獲ったりといったこともあるが、それよりも「売れている」ことが最もダイレクトに価値上げにつながるのであり、それこそがギャラリーのやるべき最重要事項だ。
作品はいいけど売れないというのは、作品そのものよりも売り方に問題があることが多く、ギャラリーの仕事のメインがマーケティングにあるとすれば、4P(Product、Price、Promotion、Place)のマーケティングミックスと呼ばれる4つの施策すべてにギャラリーは気を使わなければならない。
その中でもアートのビジネスが他業種の商品やサービスと違うのは、「Product」つまり作品については、ギャラリー側で決めれることが極端に少ないことだ。
本来ならギャラリーは作品の方向性、作る制作数、サイズといったこと全てに責任を追わなければならない。
しかしながら、それが実際にできているギャラリーは国内では少数なのが事実だ。
ほとんどの場合、制作する作品についてはアーティストにお任せとなっている。
つまり、アーティストに自由に作らせる度量を持たせて、ギャラリーはその作ったものの販売に特化しているということだ。
その場合、いわゆる「委託販売」という形式がほとんどである。
「委託販売」と「買い取り」
日本のギャラリーは、作家が作った作品を買い取りすることはなく、「委託販売」という形式で作品の売れた分だけ手数料を支払っていることがほとんどだ。
著者と取次業者、本屋の関係でいえば、アーティストとギャラリーは著者と本屋の関係であり、間に仲介する取次業者のような「問屋」機能がない状態である。
つまり、ギャラリー側は買い取りをしないため、売れ残った分は作家側に返品されることとなる。
この売れ残った分をギャラリーがさばくにはオンラインを主軸としないリアル展示だけの場合には非常に難しく、次の展示までに作品在庫を持ち越してしまうことがほとんどのようだ。
このような委託販売の場合には作家側にリスクがあるので、この形式で専属契約をギャラリーと結ぶとアーティスト側にはリスクしかないことになる。
しかしながら、国内ではギャラリーが専属契約をしている場合にも「委託販売」形式であることがほとんどとなっている。
ギャラリー側は独占的に販売したいのだろうが、作家は在庫リスクが膨らむし、しかも他のギャラリー経由で販売する自由を奪われてしまうのだ。
従い、これからの「専属作家」の定義は展覧会の全作品を買い取ってくれることが条件と考えたほうがよいだろう。
そうしないとアーティストとギャラリーは対等の関係ではなくなってしまうからだ。
委託販売の形式を残したまま専属契約とするのは、ギャラリー側が立場を利用して作家の持つ可能性を限定してしまうことにもつながりかねないのである。
これからのアーティストとギャラリーの関係性
アパレル業界でいうと、メーカーが作った商品を問屋がそれを様々な店舗でさばく仲介の調整機能によって在庫を少なくすることができる。
ただし、各階層でリスクを分散して利益を取り合うので最終価格が高くなるというのがデメリットである。
一方、SPAとよばれるユニクロやZARAのような製造小売業は、アパレルメーカーが問屋に頼ることなく、直接販売するショップを持っている。
製造から小売までノンストップで垂直統合しているので、素材の調達と企画、製造、物流、在庫管理、店舗販売など、様々な業者が分担していた業務を、ひとつの会社で行うこととなる。
SPAはメリットは直営店の売れ筋情報を元に消費者の動向を直接知ることで顧客ニーズをいち早くキャッチして商品開発に役立ることによって、売り上げと利益を同時に増やせるのだ。
万が一、ニーズを読み間違えた場合には、損失はすべてSPA一社にのしかかるハイリスク・ハイリターンのビジネスであるが、現在はこれが主流になりつつある。
これからはギャラリーもアパレル業界の後追いを始めるようになっていくだろう。
自社の取り扱いアーティストのうち、買い取り条件とする専属作家についてはSPAのようなマネジメントで、顧客ニーズに基づいた作品の開発を作家と話し合いで決めたりすることが必要とされる時期が来るのかもしれない。