アーティストは「個」の時代に
前回のコラムではアーティストとギャラリーの関係について書いた。
今回は、アーティストとコレクター、つまり購入者との関係について考えてみたい。
アーティストとギャラリーの関係が時代とともに変わっていくのと同じように、アーティストとコレクターの関係も常に変化していく。
ネットによってSNSが普及する以前はアーティストが自らをプロモーションする場合に業界誌に広告費を払って掲載してもらうしか方法がない時代であった。
だからこそ必ずギャラリーが仲介業者として存在していたし、作品だけを顧客に見せて販売することができた。
つまり以前のギャラリーは「モノ」としての作品を販売すればよかったわけだ。
そういう「モノ」だけに注力していた時代から、今は作家の持つ「個」のキャラクターも重視するように変わってきている。
作品を購入するときに、作品を見るだけではなく作家とも実際に話をしてその将来性を見極めたうえで買うというコレクターが増えているということだ。
現在のコレクターとアーティストの関係性は、投資家と起業家の関係性に近くなったと言っていいだろう。
投資家でもあるコレクターは起業家としてのアーティストの作品(商品やサービス、またはビジネスモデル)のみを見て判断するのではなく、起業家個人の熱意や柔軟性、頭のよさといったところまでを見て投資するのと同じことだ。
アート界はすでに「個」の時代に入っており、「個」による主張と世間に対する認知がより競争的になるだろう。
アーティストの数が増えていくにつれ、それぞれが個の強さを主張していかなければ埋没してしまうからだ。
コレクターはアーティストの「個」に注目すると同時に、「個」のキャラクターを見極めることで作家の将来性を計ることととなる。
作品だけではなく作家がギャラリーに在廊している時に実際に話をしてみて、その作家のもつ才能を直に観察するということだ。
このようにコレクターがアーティスのキャラクターを知れるようになると、間に入るギャラリーの役割もこれまでとは変わってくるだろう。
ギャラリーがすることは、作家による自己プロデュースではできないことや足りないところを引き出す仕事となり、ギャラリーのSNSで宣伝するだけでは不十分なのだ。
ギャラリーの役割の変化
さて、もし作家がギャラリーの展示会期中に毎日在廊していれば、購入するコレクターと直接つながることが容易にできるようになるだろう。
ギャラリーがアーティストとの間に制約条件を作らなければ、アーティストはギャラリーを介せずにコレクターに直接売ることもできるのだ。
ただし、きちんとしたコレクターは販促してくれるギャラリーを介さないのは作家の将来にとってプラスにはならないことを知っているから、直接アーティストから買うことはさすがに嫌がるだろうとは思われる。
いずれにしても、コレクターがSNSを通じて簡単に作家と知り合うことが可能になった現在においてギャラリーがすべきことは、アーティストの知らない世界を教えること、より上を目指すためのプロモーションをすることとなる。
このように、プロフェッショナル且つ存在感のあるギャラリーでない場合は、中間業者としての役割は小さくなり、必然的に顧客が直接アーティスと繋がるようになっていくだろう。
そうなると、本来ならギャラリーの役目であるプロモーションにもコレクターが携わるようになっていき、購入したアーティストの価値を上げるために美術館やアート関係者を紹介したりすることだってありえるのだ。
将来のアーティストとコレクターの関係性
以上のように、展示販売をする仲介業者としてだけのギャラリーは役割を失い、相対的にコレクターの発言力、存在力は強くなっていくことは今後は避けられないだろう。
そうなっていくと、ギャラリーは仲介業者という立場ではなく、コレクターと共同でアーティストを支援する立場に移っていくこともあるだろう。
前回のアーティストとギャラリーの関係コラムでは、これからはギャラリーがアーティストの作品制作の部分にも踏み込んでいくし、作品の買い取りを含めた一体化した総力戦へと移っていくことを述べた。
アパレル業界でいうところのSPAという製造小売り業がその先行例になるであろうし、ギャラリーは展示をして販売をするという役割だけにとどまることはできなくなるだろう。
それは同じことがアーティストとコレクターの関係性の変化にも現れるだろう。
コレクターの顧客としての「生の声」が直接アーティストに伝えられると、世の中のニーズやトレンドをアーティストがオンタイムで分かるようにもなりえるのだ。
アーティストとは自分の作りたいものを作る職業であるとはいえ、世の中のニーズを知らずに作品を制作していれば、いつまで経っても食べていくことはできないだろう。
しかし、自身が作りたいものと世の中が欲しているものが同じであれば作品が売れるわけであり、ニーズを知ることは作家の制作にとってマイナスどころかプラスでしかない。
アーティストがトレンドを知りアンテナを高く持ちながら作りたい作品が売れるようになれば、アーティストとコレクターの関係性はWin-Winとなっていくに違いない。