アートビジネスに関することでセミナーをお願いされることがあるのですが、その中で「アート思考」について話してくださいと言われることがあります。
アート思考とか右脳思考といったキーワードはここ最近は流行にもなっておりますが、それをビジネスに活かすことができるかについては甚だ疑問に思っております。
もし毎日アート作品に触れて、且つ美術史について詳しい知識を持っている人が「アート思考」を発揮してビジネスに活かせるのであれば、美術画廊とよばれる人たちが皆さん儲かってるはずですが、実態は財政が厳しい状況のところが多いのです。
またアートを日々作って右脳とアート思考をフル動員させているアーティストという職業の方がなかなか食べていけないという事実を知ると「アート思考」だけではどうにもならないことを受け止めざるをえません。
そもそも右脳は空間認知や、感情を理解したり記憶機能に主に使われており、左脳のもつ言語や計算力、論理的思考とは使われ方が違うということで、IQに対するEQ(こころの知能指数)のように分けて語られることが多いです。
人間は右脳を四六時中働かせているわけですが、実際にアートに触れる時間はわずかであり、美術館に行ったりギャラリーに行ってアートを見るだけで右脳が鍛えられるわけではないのです。
正直なところアート思考や美術史の理解がビジネスに役立つかといえば、まったく役に立たないというのがアートの現場を見てきている我々の本音です。
従い、「アート思考についてお話を聞きたい」と言われると即座にお断りを入れているのですが、アートビジネスについてはいくらでも語らせて頂いております。
さて本題に戻りますが、アートビジネスについてはその意義が非常に重要となっております。
まず最初に、アート=人 とするプライマリー市場と、アート=商品 とするセカンダリー市場では本質的に考え方が違うということです。
プライマリー市場とセカンダリー市場の違いですが、最初にアーティストが作った作品をギャラリーなどが売る市場がプライマリーで、作品を購入したコレクターがオークションなどで再販する場がセカンダリー市場となります。
プライマリーでは直接アーティストから仕入れているため、アーティストとのコミュニケーションが必要となります。アーティストが何を考えているかを理解していなければ購入する人に正しく伝えることができません。
つまり、作品というのは作家そのものであり、作家とコミュニケーションをとって彼らの世界観を理解して、作品よりも作家そのものを売り込むことがプライマリーでのビジネスの肝となります。
プライマリー市場では作品を商品として取り扱うとうまくいきませんが、一方でセカンダリー市場では作品は商品として取り扱われ、さらに記号化、情報化されていきます。
例えば、草間彌生だと黄色いカボチャが人気柄なので高く売れるとか言ったような情報が重要となります。
顧客の人気度がどう変化しているか、それによって売れる作品は誰が持っているかといった情報を持っているところが勝ちを握るのです。
このように市場ごとにビジネスでの意義が違っていることを我々は理解しなければなりません。
プライマリー市場ではギャラリーが作品=人として取り扱いをすべきですが、その次のセカンダリー市場になると作品=商品としての価値を上げていくようにビジネスの意義が変質していくのです。
さて、欧州諸国では作品がオークションで落札されたときに落札額の一部を作家に還元する「追求権」という法律がありますが、本来ならすでに商品化された作品に対して後で作家にお金を払う義務はないはずです。
欧州の追求権は作家への感情を配慮させた法律ですが、これが欧州以外でなかなか普及しないのはセカンダリー市場では作品=人 の価値感がそこに存在せずに作品=商品 となるからだと思われます。
とはいえ、アートはビジネスの意義が違うプライマリー市場とセカンダリー市場が相互に作用することによってマーケットが拡大していくのが特徴といえます。
つまり両方のビジネスの意義を理解して、それぞれがうまくかみ合うようにタグボートとしては仕掛けていくことでアートビジネスの拡大に貢献していきたいと考えています。