かなり前の話であるが、某有名ギャラリストが「アートはマーケティングができない」のようなことを言っていたのだが、それについては常に疑問であった。
というのは、世の中にマーケティングができない商品なんてないはずだからだ。
顧客の個別ニーズに応じてそれに合う作品を調達することは難しいが、それ以外にもマーケティングによって出来る施策は多くあり、アートもマーケティングが可能だといって間違いないと思う。
マーケティング力があれば作品は売れるのであり、作家のブランディングに力を注ぐのがギャラリーの宿命だと考えている。
しかし日本の場合、作品がよくてもマーケティング力で日本人アーティストが海外に負けているのが現状だ。
どのくらいかというと、おそらく連戦連敗に近いと言えよう。
日本のアートがきちんとしたマーケティング戦略の上で展開されていないからこのようことが起きている。
さて、話は変わるが、ChampionやKANGOLといった海外のカジュアルブランドが日本のファッションブランドと多くコラボレーションをしているのが最近目に付く。
なぜかというと国内のショップで定番のスエットは自社ブランドでは売れにくいが、Championンのブランドなどを付けるとよく売れるからだ。
それはブランドの軒先を借りて商売しているようなものゆえ、海外ブランドにロイヤリティを支払らわなくてはならず、日本側の利益はその分低くなる。
これは日本のギャラリーが海外作家を海外のマザーギャラリーとコラボして展示販売しているのと似ている。
Scai the Bathhouseのアニッシュ・カプーア、小山登美夫ギャラリーのトム・サックス、WAKO WORK OF ARTのゲルハルト・リヒター、ヴォルフガング・ティルマンス など海外ギャラリーとコラボで作家の販売を積極的にやっているギャラリーは多い。
逆にオオタファインアーツはマザーギャラリーとして海外に草間彌生ブランドを売ってビジネスを成り立たせている。
デビッド・ツィルナーやヴィクトリア・ミロといった海外の一流ギャラリーでさえ、オオタファインアーツ経由でないと草間彌生を売ることができないのだ。
そういった意味で、現代アートもブランドビジネスの一面があるのではないかと思われる。
例えば、海外の有名ブランドを輸入して販売するショップから進歩して、そこから自社開発をして独自ブランドを立ち上げるファッションブランドも多い。
当初は質の高い商品を海外に求めてそれを売っていたが、そのノウハウの蓄積から自社でも作れることとなり、経営の舵を切ったのだろう。
その場合、自社ブランド開発に切り替えても、それまでの海外ブランドのイメージを損なわない戦略を通していることが多いようだ。
この方式は、アート業界にも同様のことが当てはまるであろう。
つまりアートにはブランドビジネスと同じ考え方によるマーケティングが必要だということだ。
さて、作品がよくても売れないということがアート業界でもよくあるのだが、その主な理由はマーケティングにある。
つまり売るための仕組み作りがないのだ。
ギャラリスト個人による営業力によって売っている時代は終わっている。
顧客層が違えばいくら営業トークを頑張っても売れないし、値下げをすれば利益が下がるだけだ。
当たり前にやるべきマーケティング戦略はアート業界には浸透しておらず、場当たり的にアートフェアに出展しているギャラリーが多い。
一貫したマーケティング戦略が必要とされる今の世の中では時代錯誤だ。
価格の付け方、作品の選び方、プロモーション手段、販売チャネル、これらすべてを総合的に考えていかないと、ブランド力を強化することはできないはずだ。
ブランドとはその作品が持つイメージを対象顧客に明確に伝えることにある。
そこにはストーリーのあるドラマも必要だ。
となると群雄割拠の中で、どのように独自性を立てて、作品の魅力を作っていくかが重要となってくる。
タグボートが今後、どのようなマーケティング戦略を使って展開していくかについては、次週のコラム(有料版)にてもう少し詳しく伝えていきたいと思う。