アートとは見たものを心で感じるものだ、と言われる。
つまり、個々の感受性が重要だということだ。
しかしながら、鑑賞する本人にとって何の印象も受けない作品の場合は感じることは難しいことが多い。
また、直感的に好きではない作品には興味を持たないというのが一般的だ。
人によってアート作品に対する感じ方が違う中で、我々が作品の感性というものをどのようにビジネスに直結させるのか、について書いてみたい。
まず第一段階として、作家が作った世界観を人に見せて、それをそのまま印象として感じてもらうことは難しいことではない。
「見せる」という部分において、人はさまざまな感じ方をする。
例えば、美術館に行って入場料を払って作品を見たときに、個別に何らかのを感情を得るはずだ。
それがギャラリーも同じであり、見た作品を鑑賞者は色んな風に感じることができるのだ。
アート作品というものが見て感じてもらうだけが目的であればそれでよいのだが、そこで「購入」という「ビジネス」の側面に入ってくると、感じたことを視覚化し、論理化する必要があるのだ。
論理化することは前回の「アートの価格構造の後編」にて説明したように、作品の持つ付加価値の部分を構造化することに似ている。
つまり、共感すること自体は無料なのだが、それをお金を通して価値の交換をするには、作品としての「信用」を分かりやすく「見える化」することが必要だということだ。
どういうことかというと、お金とはそもそも「信用」を交換するための道具であるので、アートを流通させるためには、アートそのものに信用を持たせる必要があるということだ。
特にビジネスの現場では、作品の持つ意味を「視覚化」し「論理化」しないことには作品に信用をもたらすことが難しい。すなわち信用によるお金を通じた「価値の交換」ができなくなるのだ。
アートに有用性があるのは、作品の世界観に対して共感することと、信用に基づいた価値の交換の2種類があり、どちらもそれを文章化し見える化するロジックが必要となるのだ。
例えば、見た目だけで作品を買う場合、インテリアとしての有用性はあるかもしれない。しかし、それだけだとその有用性の価値は10万円くらいで高止まりしてしまうだろう。
そのようなインテリアとしての価値だけではアーティストは食べていくことが出来ないのは言うまでもない。
つまりアートの才能を活かす場所としてインテリアだけでは十分ではなく、他の付加価値が必要だということだ。
アートは作品について納得のいく価格構造であることが望ましい。
目の覚めるような高額作品にもロジックがあり、だからこそ、安心して買える「信用」があるのだ。
資産としてのアートを買う場合に、価値の構造を理解していることが重要であり、欲しいからといって感情的に高値掴みをしないことだ。
また、アートを情報だけで買うと、「バブル」となる危険性がある。
つまり、「最近何々という作家がオークションで上がっている」という情報をもとに作品を買うという「投機」目的のアートだ。
この場合、アート作品は情報として記号化していく。
また、そのような記号化された情報による作品の購入はセカンダリー市場での購入がメインとなる。そうすると購入時に15%の手数料を払うし、売るときにも10%の手数料がかかるので、合計して作品価格が25%よりも上がらないと売る時に損をすることとなる。
オークションで価格が上がらずに不落札となったら、その作品の不落札記録は残るのでさらに売れにくくなるだろう。
さて、オークションのような2次市場での売買では「いかに安く仕入れるか」が重要であり、情報戦となる。
証券会社から株を買うのと一緒でEBITDA(企業の現在価値)やPER(株価収益率)などを見て割安だと感じれば買うということだ。
アートの世界にもやはりここにプロがいて、割安なアーティストに対して大きなお金を動かすことで全体の相場を作っているような相場師のような業者もいるのだ。
例えば、国内で草間彌生や具体の作家をブームが始まる初期に買いまくっていた業者は今もプライスリーダーとなっている。
国内のアートマーケットは海外と比較すると極めて規模が小さいため、資金力のあるところがマーケットをコントロールしやすいのかもしれない。
このような買い方はまさにアートを左脳によるロジックだけで買っているようなものであり、そこには右脳による感受性というものが必要なくなるのだ。
さて、次ではいよいよアートの付加価値部分の構造から見て、どのようにアートを論理化するかということについて説明したい。
こちらは有料となるが、ご興味のある方はぜひ以下をお読み頂きたいと思う。