先週末の東京は多くのアートイベントで盛り上がった。
tagboat Art Fairも客足が途切れることなく多くの来場者があり、販売された作品数も予想を上回る結果となった。
アートフェア東京のサテライトとして有楽町界隈では複数のアートイベントが開催され、NFTを含めたアート作品の購入にはベストの機会となったようだ。
この3月で日本は現代アートがプチブームになり始めている兆候が見えるのだが、それはオークションをメインとしたセカンダリー市場の価格高騰が影響しているのは間違いない。
同時期に開催されたSBIアートオークションは入札ロット数が75点と少ないにも関わらず、手数料を含めた落札総額が12億8千万円となり、その中でもエスティメートをはるかに超えるイラストアートの落札額の隆盛が目立った形となった。
アジアのアート市場の特徴はセカンダリー市場がプライマリー市場を上回っていることであり、欧米とは違う形態をとっている。
日本も先行する中国、香港、台湾、シンガポールといった中華圏のセカンダリー市場を追随しているのが現在の状況だ。
ただし、オークションの落札価格の主導権を握っているのは中華圏のコレクターであり、日本のイラストアートの命運は彼らにかかっているといってよいだろう。
勃興するイラストアートと若手アーティスト
ここ最近、オークション市場で異常なほどにまで高騰している、KYNE、LY、TIDE、Backsideworks.といった本名を隠したイラストアートの作家はいわゆる日本の典型的なイラスト文化とは少し違うシティポップ的な要素を含んでいるのが特徴だ。
わたせせいぞう、永井博といった80年代のアルバムジャケットを意識したアートや、そこから派生したファッショナブルな女の子を描く江口寿史のスピリッツをそのまま受け継いでいるアートが現在のオークション市場で流行している。
これはある意味でバブルが勃興する前の80年中盤の日本のイラストを意識しているものである。
80年代後半になるといわゆる「ヘタウマ」ブームが起きるのだが、今や東京藝術大学の学長にまでのし上がった日比野克彦などは当時段ボールを使ったヘタウマアートで流行となった一人だ。
その東京藝術大学での卒業制作展ではイラストアートのようなものは存在せず、映像、インスタレーションなどのコンセプチュアルなアートが増えている状況だ。
つまり若手アーティストが作り出す作品と、オークション市場で人気が出ている作品とでは全く違うものになっているということである。
KYNE、LY、TIDE、Backsideworks.はいずれも美大出身ではないイラストレーターであり、そもそも現代美術の作家としてデビューをしたわけではないのだ。
ポストコロナの日本のアート市場
欧米では新型コロナにおける規制はほぼ全面的に解除となる中、ウクライナ戦争にすべての関心が移っている。
いまだ日本だけがコロナを気にする雰囲気のまま経済の復活から取り残されていく中で、今後の日本のアート市場はどうなっていくだろう。
コロナ時代には行き場のないマネーが、株式、不動産以外に仮想通貨、NFTといったデジタル商品も資産の一部として投資されることとなった。
同じように、日本の現代アートも欧米や中華圏の後追いをする形で小さなブームにはなりつつあるように見えるがまだまだ黎明期である。
欧米や中華圏と比較して極端に小さい日本のアート市場にはまだまだ伸びしろがあるのだ。
現在は、30-40代の起業家や投資家がアートに興味を持ち買い始めたばかりの時期であり、まだ何を買えばよいか分からないからこそ一目で分かりやすいイラストアートに人気が集中しているのだ。
これらの新しいコレクター層が今後より現代アートについての知識と教養を深めることで、購入するアートのジャンルも変化していくだろうと予想される。
実際に作品を作っている若いアーティストの動向をチェックすることで、これから成長しながら変化する日本のアート市場が分かるだろう。
アートで重要なのは「今」起きている市場ではなく、「未来」に起こる成長株を読み取ることなのである。
tagboat Art Fairの特設ウェブサイトは3月21日まで公開しております。
https://www.tagboat.com/products/tagboatartfair2022.php