先日、Frieze London、Paris + par Art Baselという2つの欧州最大のアートフェアに行ってきた。
Paris + par Art Baselは、それまでFIACというフランス最大のアートフェアから置き換わった形で開催されたものである。
今回のParis+par Art Baselの結果如何によってFIACが復活するかどうかが決まるのであろうが、各メディアの反応を見るとParis+par Art Baselの売上は順調だったように見える。
開催地であるグランパレ・エフェメールはエッフェル塔の通りの反対側に位置し、フェアの開催地としては格調高い場所であったため、4万人の来場者が行き交う場所となったようだ。
海外からの来場者が増え、且つ売り上げも増えることで、スイスのバーゼル、米国のマイアミビーチ、香港に続き、パリはアート バーゼルの 4 番目の開催地として継続して開催されていくことになるだろう。
さて、アジアのギャラリーの出展が極端に減ったFrieze Londonであったが、その傾向はParis+par Art Baselも同じであった。
日本からはFrieze Londonからの流れでTaka Ishii Galleryが出展しているほかはTake Ninagawaが出展しており2軒のみだ。
欧州の2大アートフェアに日本勢が2軒のみというのはあまりにもさみしい限りである。
他にも韓国からはKukje Galleryが出展していたくらいであり、東アジア勢は影が薄かった。
日本のアーティストとしては、会場入ってすぐにルイ・ヴィトンの展示ブースに草間彌生自身の蝋人形や村上隆の立体作品が展示されてたが、売り物ではなかったようだ。
他のブースにも日本人アーティストの展示はほとんど見ることがなかったが、古い西洋名画の作品をコミックのようにに歪曲して見せる新進気鋭の日英アーティスト、サイモン・フジワラの作品が多く見かけられた。この傾向はFrieze Londonも同じであった。
ロッカクアヤコ、五木田智央、加藤泉、名和晃平といった国内のオークション市場を賑わせているアーティストの作品は1点もなかったし、KYNEなどに代表される日本のイラストアートについては似たタイプの作品さえも見ることがなかった。
いかに日本のアートマーケットがガラパゴスであるかを思い知らされた欧州の2大アートフェアであったが、それよりも印象深いのはそれらのアートフェアが大きくビジネスライクに舵を切って進んでいることだ。
そして、もうひとつの傾向はストリートアートの作品が減っていることだ。
ビジネスに特化していくアートフェア
従来の国際的な大型アートフェアは、インスタレーション作品や映像作品など、最先端を行くアートが数多く展示されていた。
特に大型のインスタレーションはフェアの主催者側の意向により、会場を盛り上げるための「映え」の場として展示されることが多かった。
会場内を彩る様々な形態の作品が展示されることで、アートのトレンドや多様さを知るメリットもあったのだが、今回のFrieze London、Paris + par Art Baselについてはそのような大型の仕掛けが一切なかったのである。
2020年、21年の2年間コロナ禍で苦しんだギャラリー側の都合もあるのだろうが、いずれにしても目を楽しませることよりも購入可能な作品を見せる展示が優先されており、よりアートフェアがビジネスライクになっていったということだ。
また、Gagosian、David Zwirner、Hauser &Wirth、Pace、WhiteCubeといった世界各地に支店を持つメガギャラリーにばかり大きなスペースを割り当てるブース展開にならないような配慮があった。
つまり、資金があるメガギャラリーが優先されてますます巨大化することが新進のギャラリーの成長を抑制していることに懸念しているのかもしれない。
結果として、これまで聞いたことのない欧米のギャラリーが数多く欧州の2大アートフェアに出展しており、全体として若返りや新陳代謝が進んでいることが感じられた。
お金があるギャラリーだけが得をするのではなく、展示される作品の良し悪しで評価されるという分かりやすい民主主義が欧州に発展しているようだ。
もう一つの傾向として、米国で主流のストリートアートが欧州ではさほど展示されていないということだ。
ロンドンやパリの街の中にはニューヨークのように多くのグラフィティ(落書き)が散見されたが、そのストリートアートのブームは鳴りを潜め始めているように感じた。
一方で、ベネチアビエンナーレで見られたような多種多様な国や民族の作品を展示するダイバーシティはますます広がりを見せている。
アフリカ系や南米系など、様々なアーティストによる作品が見られたことは日本では見ることのできない進化であろう。
市場拡大で先を行く米国に対し、長い文化の歴史を持つ欧州が「待った」をかけたかのように感じた今回のアートフェアであった。
もちろん会場内でマスクをしている人はほとんどいなかった。
残念ながら、いまだにコロナ禍を終わらせることができないアジアとの格差は開いていくばかりである。