新規感染者が減少し、新型コロナウィルスの収束がすこしずつ見えてきた昨今、経済の先行き不透明感がなくなってきたことから株価も戻り始めてきた。
ただし、これは投資家が上場企業の数年後を見通して売買する世界であり、実態経済はこの1年は壊滅的となることは避けられない。
一旦、新型コロナウィルスの新規感染者は減っても、またいつ感染者が増えるかもしれず、そのたびに大騒ぎをすることが今の日本では考えられる。
インフルエンザのようにワクチンが開発されても、予防接種の抗体効果がない人もいるので、ウィルスがゼロにならない限りは流行は続く。
アート市場全体の行方
新しい感染症に対する恐怖を植え付けられた後には空前絶後の大不況が待っており、景気の動きに左右されるアート市場においても全体として大きく売り上げが落ち込んでいくことが予想される。
まず、高額作品の購入は一気に落ち込むだろう。
飲食、観光、エンタメといった不要不急の需要が戻るかが分からない状況では、不況下にキャッシュを手元に置いておこうという動きが顕著になるからだ。
単価の高い作品が売れない一方、リーズナブルな価格のアートは逆に買い場となる。
不況になると価格が安定しているプライマリー市場(ギャラリーからの購入)が増えて、逆に相場に影響されるオークションの購入が減ることが予想される。
オークションでは高い作品が売れなくなるから出品者が躊躇するので全体の市場が縮小するが、企業の倒産などで持っていた作品の放出が増えるので掘り出し物も出てくるだろう。
従い、コロナ後の不況下では低価格品を新規に購入する顧客の獲得数が重要なカギを握ることとなる。
新しい顧客に低価格品をなるべく多く売っておき、不況から好景気に転じる時を待つのだ。
今はまさにその時期となるのだ。
リアルのコストが上がりオンライン化が必須となる
コロナショックの間に多くのギャラリーで展覧会が延期または中止が余儀なくされたが、それが復帰してもオープニング・レセプションのような人を多く集めるイベントは激減するだろう。
6月以降に緊急事態宣言が解除されても極端に人が集まる空間には恐怖を感じることは続くからだ。マスクをせずに直接人と対峙することに躊躇する心情は変わらない。
わざわざ遠い場所まで鑑賞に行く人も減るので地の利の悪いギャラリーは不利だろう。
さらに狭いギャラリー空間で密になることを嫌悪する人がいるため、ギャラリーが来場者に徹底して配慮する体制を続けざるを得ない。
そうなると、検温、消毒、風通しなど感染対策だけでなく、ギャラリーは来場者数の制限をせざるを得ないので、一人当たりの来場者に対するコストは必然的に上がることになる。
さらには、オンライン化を検討していたギャラリーは今後はネット販売と展覧会を同時開催することが増えるだろう。
そうしないとまたコロナが再開して急に展覧会を中止にするときに対応ができないからだ。
これまでアートは現物を鑑賞してナンボの商売であったが、現在ではオンラインだけでも十分アートを楽しめる人が増えつつある。
そうなると対面での交渉や接遇のみを強みとしていたギャラリーは苦境に立つことになる。
コロナ時代はアートのビジネス自体も変えていかなければマーケットの復活もないのだ。
オンラインアート市場はどこが伸びるのか
最近はアートのサブスクリプションを始める新進企業が増えてきている。
簡単に言えばアートのレンタルであるが、月次で安定した収入が見込める新しいビジネスということで着眼点は悪くない。
しかしながら、アートの中でも現代アートのような嗜好品はレンタルには向かないと言える。
レンタルビジネスの目的は誰もが利用する汎用商品を安く仕入れて、継続的に貸すことでクライアントの経費を減らすことである。
つまり、インテリアに合うような汎用的な安いアート作品を飾るのにはよいだろう。
しかしそこには作家のコンセプトは無視され、資産としてのアートを理解できない人が主に利用することになる。
さらにはレンタルは購入と違って作家への支払い金額は少なく、コレクターの手元にも残らない。
サブスクリプションという名前自体は目新しいが、このビジネスは利用者のデータを集積し、分析し、新しいサービス改善につなげていくことに意味があるので、どちらかというとシステム開発業者向きなのだ。
システム開発は一つのサービスを契約する様々な顧客が利用するため、開発リソースやインフラを一つに集中できるというメリットが企業にとってある。
一方、新機能の追加、素早いアップデート、パッケージより安い価格といったメリットが享受できなければ顧客にとってのメリットがないのがサブスクリプションなのだ。
アートにおいても上記と同じような思想で開発できるビジネスモデルが作れれば期待が持てるだろう。
現代アートはあくまで嗜好品であり、個人的な好き嫌いに大きく影響されるものなのだ。作家のキャリアアップも含めて考えると、個別のアーティストのプロデュースをいかにオンラインを通じて成し遂げるかに舵を切ったビジネスの方が将来性が高いだろう。
価格を明記してワンクリックでクレジットカード決済できるオンライン販売でないと顧客には見向きもされないことは言うまでもない。
アフターコロナで出現する新しいアートの形態
コロナ時代においても新しいアート作品は出現し始めている。
その新しい時代で発展するアートを発見して大きく育てることがこれからのアート市場の復活にかかっている。
今後コストが高くつくリアルスペースだけではなく、オンラインを通じてアーティストをプロデュースする手法は自社サイトだけでなく、動画制作、SNSなど多岐にわたるだろう。
すでに出現している新しいアートの芽を発見する方法については、先日投稿した以下コラム「不要不急のアートが必要となる時代 -その2-」を参考にして頂きたい。
また、過去にアート市場がリーマンショックからどのように復帰していったかについての論考は次回のコラム「コロナ禍からアート市場は復活するのか -その2-」の中で近日中に述べていきたい。
以下コラム「不要不急のアートが必要となる時代 -その2-」は5月17日までの限定公開で以後は有料となります