日本の現代アートマーケットのシェアの大部分は首都圏となっている。
その中でも特に東京に偏っているのが現状だ。
首都圏が人口集積エリアだから当然ではあるが、それにしても首都圏が日本では突出した存在となっている。
タグボートの過去の購入者データを見ても圧倒的に東京都内に住む顧客の購入者が多い。
全国の購入者の50%近くを東京都が占め、首都圏だけでその数は3分の2を超える。
東京都の人口が全国の11%程度であることを考えると、地方との比較で一人あたり5倍くらい東京在住者がアートを購入していることとなる。
これは実際にアートを見た経験やアートに関する知識が購入につながっているといって間違いないだろう。
地方では東京と違ってアートに触れる機会が少ないのだからしょうがない部分もあるが、今でもアート市場の東京一極集中は少しずつ進んでいるのだ。
アート作品を見る機会でいえば、東京に美術館は多いとはいうものの、地方にもアートを展示する美術館は数多くあるので本来ならもっと地方でも市場が拡大してもよいはずだ。
もっとも地方では立派な美術館はあっても現代アートの展示が少ないという問題点もある。
これは開催しても来場者が集まらないという理由があるのだろう。
さて、アート市場が地方で拡大しない理由のひとつはギャラリーの存在にある。
コマーシャルギャラリー(レンタルではない画廊)については東京が全国の半分以上といってよいくらい寡占化されており、地方が極端に少ない。
また、現代アートを取り扱うオークション会社については東京にしか存在せず、地方には今のところはない状況だ。
つまり、アートを見る機会があっても購入できる拠点が少ないため、地方では「アートは見るものであり買うものではない」という認識がまだ残っているのかもしれない。
このように、あまりにも首都圏と地方との差が大きいため、大阪を中心とする関西のような巨大な商圏があっても、現代アートについてはマーケットが首都圏から比べると5分の1程度となっている。
関西には現代アートギャラリーが東京に比べると少なく、実際に売っている作品や拠点が少ないことからマーケットが弱いのだろう。
そのような関西ではあるが、独自のアートフェアが開催されるなど様々なイベントによって市場を作ろうとしている現状がうかがえる。
アートは実物を見ることが重要なので、実際に買うことのできる作品を見た経験がないと購入には結びつかないことを理解してのことだろう。
アートフェアには東京からも多くのギャラリーが参加するので、わざわざ東京に行かなくても作品が買えるメリットがあるのだ。
さらには、名古屋や福岡、札幌といった地方の中核都市にいたってはギャラリーの数はさらに少ない。
現代アートの購入を求めて東京に行くか、オンラインで購入せざるを得ない状況にあるといってよいだろう。
上記のように、地方は美術館はあっても現代アートの展覧会は少なく、市場が小さいからギャラリーも新規で開廊しないという悪循環に陥っている。
ビエンナーレ、トリエンナーレといった町おこしイベントは直接マーケットに関係しにくいので、地方はアートフェアを中心としたイベントで盛り上がりを作っているのが実際の状況である。
大阪は従来のART OSAKAに加えて、アートステージ大阪、大阪関西国際芸術祭といったアートフェアが今年から加わった。
京都はアーティストが主体となるアートフェア「ARTIST’S FAIR」のほか昨年初めて開催されたアートコラボレーション京都という日本のギャラリーがホストとして海外のギャラリーをゲストに迎え、ブースを共有して出展するアートフェアなどがある。
金沢は伝統工芸に強い土地柄があって、KOGEI(工芸)アートフェア金沢といった独自のフェアを開催するなど場所の特色を強く出している。
また、福岡が開催するアートフェアアジア福岡では、今年は過去最大の規模で福岡国際会議場とホテルオークラ福岡の2会場同時で75のギャラリーが出展するアートフェアとなっている。
福岡の商圏人口は名古屋の半分くらいではあるが、アートフェアの規模は名古屋よりも大きく、アートマーケットの成長に期待がかかる。
博多駅近くにOverground という大きなスペースを持つギャラリーが今月新しく開設するなど、ギャラリーが増えることで福岡の街がアート市場に存在感を持つようになるかもしれない。
タグボート代表の徳光健治による二冊目の新刊本「現代アート投資の教科書」を販売中。Amazonでの購入はこちら