前回のコラムで述べたように、日本の現代アート市場は過去30年間、「失われた時代」であった。
アート市場は、実際の投資市場と連動しており、資産を持っているだけではなく、それを積極的に使い回す原動力がなければマーケットは活性化しない。
現在の日本経済の状況を考えると、この現状を打破するためには、国内市場にとどまらず、海外市場への積極的な進出が必要である。
コロナ禍が早期に収束し、いち早く経済活動を再開した欧米と、ゼロコロナ政策に固執し、遅れを取ったアジアとの間では、経済回復のスピードに大きな差が生じたのは事実である。
それでも、日本の株価が旺盛なのは、NISAやiDeCoなどの制度により、個人投資家でも参入しやすくなった結果であり、一部の高級不動産が円安効果で外国人投資家にとって格安に映ることが影響している。
しかし、物価上昇に対して賃金と金利が相応に上がっていない現状は、黄色信号どころか、完全に赤信号である。
株価や不動産価格の上昇と実体経済の乖離が広がると、利益確定のために市場から撤退する投資家が増える可能性が高い。
こうした国内経済状況を踏まえると、日本のアーティストの将来を考えたときに、国内市場だけでなく欧米市場も視野に入れた活動が必須となっている。では、具体的に海外進出をどのように進めていくべきかを考えてみよう。
海外進出の方法とは
現代アート作品を海外市場で展開する際には、ターゲットとする地域とプロモーション施策が重要である。
まず、その地域で作品がどれだけ売れる可能性があるかを見極めることが必要だ。欧米なのか、中国を中心とするアジアなのか、によって分かれるが、基本的には欧米市場を意識したマーケティングを行い、その中で中国などアジア地域からのオファーがあれば選別するのが良い。
やはり、アートの先進国は欧米であり、欧米で認められることで他の地域へ広がる可能性が高い。
中国で売れても、その先欧米でも売れるかどうかは未知数だからだ。
また、アート作品は「権威」によって評価されることが重要であり、それが市場での販売拡大につながる。
ベネチアビエンナーレやアートバーゼル、ターナー賞のような権威は欧州にあり、そこで獲得した権威を米国市場で拡販するケースが多い。
最近では、米国が世界のアート市場の40%を占めるようになり、米国での評価だけでも十分な権威を得られるようになった。
中国およびアジア市場は、コロナ禍前には最も成長が著しいマーケットであったため、日本のギャラリーも台湾や香港、中国のアートフェアに多く出展していた。
しかし、アジア圏の成長スピードの鈍化やアーティストのブランディングなどの問題が浮上してきたことから、再度欧米市場への進出を考え直すギャラリーが増えている。
現地アートフェアへの出展
海外進出を考える上で、現地のアートフェアに出展するだけでは不十分である。
現地でのプロモーションがなければ、偶然に作品が売れることもあるが、長期的なファンの獲得にはつながらない。ビギナーズラックで作品が売れたとしても、翌年には失敗するギャラリーは多い。
アートフェア出展だけでなく、オンラインでのプロモーションを十分に行うことが重要である。
現地のオンラインメディアで記事として取り扱ってもらったり、SNSでの露出を増やすなど、現地の顧客に見てもらえる機会を増やすための戦略が必要だ。
また、アートフェア以外の期間にもコレクターとの販売機会を作らなければ、点での展開を続けることになる。これではコストばかりかかり、売り上げを増やすことは難しい。
展示だけでなく、現地でのオンラインメディアでのプロモーションやSNSでの露出など、多角的なアプローチが必要である。
さらには日本のアーティストが海外で認知されるには、展示だけでなく、すでに知られた作品をテキストベースでプロモーションしなければならない。
アーティストの作品説明やインタビューの英語化、地域に根ざしたマーケティング手法を学ぶだけでなく、その地域に合った作品選びも重要である。
さらに、現地の文化やトレンドを理解することも重要である。現地のアートシーンに精通したキュレーターやギャラリストとの連携を図り、地域の特性に合ったプロモーションを展開することで、より効果的なマーケティングが可能となる。
日本のアーティストが海外市場で成功するためには、綿密な計画とプロモーション戦略が不可欠である。展示するだけで満足せず、現地での認知度を高め、長期的なファンを獲得するための努力を惜しまないことが求められるのだ。