最近のトレンドとしてようやく日本においても現代アートとファッションとの関係が強くなってきている。
これまでは草間彌生や村上隆といった超有名アーティストがルイ・ヴィトンなどの高級ブランドとコラボレーションする程度であったものが、今ではより幅広いブランドと様々なアーティストへのコラボレーションがどんどん進んでいる。
アートとファッションのコラボが進む理由としては、従来と同じような流行のファッションをまとっても購入者の心が満たされないのはアート的側面が足りないからであり、同時にデザイナーもアート作品のように自由にファッションを作りたいという欲望があるからだろう。
定番の機能的なファッションが進む一方で、ファッションがアート側に寄り添う部分は今後もっと拡大すると予想される。
さらには、先日会期が終了したKaikai Kiki Galleryの細川雄太の個展のように、アパレルブランド「READYMADE」のデザイナーが自らアート作品を制作し個展をすることとなった。
アートとファッションの関係は、アートをファッションの装飾品の一部として利用するというだけではなく、ファッションの感覚をそのままアート作品に生かすといった細川雄太のような取り組みも増えていくだろう。
さて、これまでのファッションとアートとの関係を流れの中で追って見ていこう。
アート作品とファッションとのコラボレーションはまったく違うものが混ざることで新しい衝突が生まれるイメージから始まっている。
相容れないものをぶつけることで生まれる違和感を楽しむ側面もあるだろう。
またアートの持つ独特の世界観をブランドに注入することで新しい価値観を生むことにもつながるのだろう。
このようにファッションにアートを取り入れた時代から、今度はファッション業界がアートに参入する時代へと変わっていく。
その流れから、ファッション側にいた人が好むアートが若い世代のコレクターに支持されるように変わっていくのだ。
投資家や若いコレクターがどのようなアートを買えばよいか分からない中で、ファッションブランドやデザイナーなどがInstagramですすめる作家を積極的に買う傾向にあるのが今の時代だ。
KYNE、TIDE、長場雄といった日本のイラストアートがブームとなっているのは、投資家や若いコレクターが買う作品を迷っている時に、ファッション側が橋渡しをしてくれたと言っていいだろう。
日本の旧アート業界に住んでいる人はファッション業界とつながっていないから、彼らからみるとなぜ今イラストアートが流行しているのかが検討がつかないと思われる。
実はアートシーンの一連の仕組みは、ファッションの市場構造と似ていることを我々は理解しなければならない。
つまり、アートもファッションも、これまでのよい部分を残していきながら現在を壊していって新しい流れを作っているということだ。
伝統と定番を守りながらアバンギャルドにチャレンジすることの重要性は変わらない。
アートとファッションのどちらも常に「発明」が必要であり、顧客の嗜好に頼った従来のモノづくりから離れ、顧客の上を行く作品を作らなければならないという意味では両者は似ていると言えよう。
とは言いながら、国内のアートとファッションでは市場規模がおよそ2百倍も違う。
アートにとって口コミで拡大していくファッションの絶大な力は無視できない存在であり、さらにファッションは記号やイメージを社会に浸透させるメディアとなりえるのだ。
こういったファッションの動向を無視していては、これからのアートの行先さえも見失ってしまいかねないと言えるだろう。
先日、旗艦ギャラリーを原宿にオープンさせたNANZUKAはディオールとコラボしたダニエル・アーシャムや空山基、アディダスとコラボした田名網敬一、パルコの広告を手掛けた山口はるみといったアーティストの作品を取り扱っており、ファッションと非常に近い位置での戦略を展開しており絶好調だ。
冒頭に紹介したKaikai Kiki Galleryの細川雄太はREADYMADEというブランドを2013年にスタートしてからはデザインだけでなく細川雄太がアート作品の制作にまで手を伸ばしており、その才能を活かした知名度はぐんぐん上がっている。
細川雄太の個人Instagramのフォロワー数は21万人とKaikai Kiki Galleryのフォロワー数16万人よりも多いのだ。
また、ALMOSTBLACKというブランドは当初よりアートとのコラボを多用しており、今年の秋冬シーズンからは白髪一雄と妻の富士子とコラボレーションした商品展開を始めることとなった。白髪一雄夫妻の世界観を全面的にファッションに生かすことでブランド構築に役立てることとなるのだ。
このように、現在ではアートをコレクターに販売するにあたり、その間にファッションやデザインからの視点を意識することが重要となるトレンドがあり、それが今の日本のイラストアートのブームに繋がっていると思われる。
また、アートのファッション化は欧米の流れでもあるので今後もアート市場に浸透していくこととなるだろう。