アートは身近なエンタテインメントになり得るのだが、それに気が付いていない人は意外と多い。
通常は美術館やギャラリーで作品を鑑賞する、というのが一般的なアートの楽しみ方であるが、それ以外に楽しみ方はたくさんあるのだ。
今回のコラムではアートをエンタテインメントとして楽しむその実践方法について考えてみよう。
アートを観る楽しさ
さて、アートの楽しみ方として最も大きなものは「観ることの面白さ」である。
作品そのものを楽しむというのもあるし、その他にも展示方法や作品の仕掛けを楽しむということがある。
平面や立体の作品だけではなく、現在はインスタレーションやビデオアートなど作家の表現方法が多彩になっているので展示方法にも工夫が見られるし、展示の仕掛けを楽しむことは当たり前になっている。
もうひとつは、作品のコンセプトが見ただけでは分かりづらい作品を観るという面白さもある。
いわゆるコンセプチュアルアートというものは、作品の持つ美しさよりも作家の思想を表現したものであるため、その良さが分からないという人もいるが、それを分からないままにするのはもったいない話だ。
ぱっと見ただけでは何の変哲もない作品であるが、そこに込められた作家のコンセプトを読み取っていくという作業もひとつのエンタメだ。
理解できないものに対しては興味を持てないというのは一般的ではあるが、その一方で分からないことを紐解く謎解きが好きな人にとってコンセプチュアルアートほど面白ものはなく、はまってしまう場合が多い。
アーティストに触れる楽しさ
作品として観るだけではなく、その作品を作る作家にフォーカスしてみよう。
アート作品は作家のもつ独自性や世界観によって作られてはいるものの、あくまで物質にすぎないので、購入後に作品を部屋に飾っていても新しいコミュニケ―ションが生まれるわけではない。
そこで、作家とのコミュニケーションという楽しみ方があるのだ。
制作したアーティストが現存していれば、彼らの成長を支えたり、交流を深めることを楽しむことができる。
また、直接作家と話をするだけでなく、展覧会でのトークショーやインタビューなどで作家の制作秘話、本音を探るとともに作家の人間性にまで知るということはひとつの楽しみでもある。
実際にアーティストを直接知った時に、その人間性を気に入ったら作品を買うというコレクターも少なくない。
だからこそ、アーティストもコレクターと直接触れ合う機会を増やすために、ライブ・ペインティングやアトリエ・ビューイングを開催したり、自身のSNSで発信していくことは重要だ。
アートファン同士のコミュニケーション
日本で少ないのが、アートファンが集まってのパーティーや会合だ。
個人的な趣味として鑑賞を一人で楽しむ方が多く、アートファンによる会合が頻繁には行われていないのが現状だ。
一方で、ニューヨークではチェルシーなどのギャラリーが多く集まる地域では、金曜日の夜にギャラリーが一斉にオープニング・レセプションを開催するなど華やかな雰囲気に包まれるため、それを楽しみに多くのアートファンが集っている。
また、METなどの一流美術館が主催するガラパーティーなど、チャリティーを目的として紳士淑女が集まるディナーでオークションを開催することもよくあることだ。
コロナ禍でこのようなパーティーを開催することは一時的にはなくなったが、やはりアートは華やかであるべきであるし、またすぐに復活することになるだろう。
アートにエンタテインメントは必須
上記のようにアートの楽しみ方は多岐にわたるのであるが、日本の風習としてアートは事前の知識としてお勉強が必要なものという認識が高く、アートをエンタメの手段として楽しむということはまだ少ない。
どうしてもアートを堅苦しくしてしまいがちであり、お高く扱いすぎているのだ。
アートをエンタメに利用することは決して悪いことではなく、まだアートに慣れていない初心者に対してその敷居を低くするには、楽しむ要素としてエンタメが必要なのだ。
美術史を理解したりアーティストのコンセプトを事前に知らなくてもアートを楽しむことができるし、もちろん知識を得ることによってより深くアートを楽しむことができる。
アート業界の中にいる人が外に対して壁を作っているように見えるのであるが、その壁を壊すにはもっとアートにエンタメが必要であり、そのための努力を怠ってはいけないと思う。
タグボートはコロナ禍が明ける来年は、大型のアートイベントだけで8件ほど今準備中である。
そこでは普通にアートを見せて売買する場を作るだけではなくエンタメ的な要素が必要であると思っており、初心者にも門戸を開くために楽しめるイベントとしていくことを検討している。
多くのアートファンが広がるきっかけになれることを期待している。
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