日本のアート業界が広告を使わない理由
日本は現代アートの市場が海外と比較すると小さすぎることもあり、広告活動が活発に行われていない。
アートにおける広告とはどちらかというと広報のようなものが多く、展覧会の告知などをダイレクトメールやメール配信、SNSに投稿してはいるが積極的に広告費としてお金を払っているギャラリーは多くない。
広告費を捻出してまで自社の業績をアップさせようとするギャラリーが少ないという実体もあるのだろう。
もうひとつの問題として、広告の効果があまりないので広告を出稿していないギャラリーも多いと思われる。
具体的には、国内の美術専門メディアの読者が重要なコレクター層とは言えないため、広告としての効果が低く集客や販売に直結しないという問題があるのだ。
そうなると賢明なギャラリーは美術専門メディアに出稿をせずに、無料で記事として載せてもらえればそれで満足となるだろう。
例えば、美術業界ではギャラリーが美術専門メディアに出稿する場合に「協力させてもらう」という言い方をすることが多いのだが、お金を払う側がメディアに対して「協力する」ということの意味は何だろうか。
つまり、出稿してもたいして効果は上がらないだろうけど、今回は広告費を支払うので、次回は無料で提灯記事を書いてね、という意味だと思われる。
このように美術業界では他の業界では考えられないようなギャラリーとメディアの間に歪な関係があるということだ。
これでは、アート業界がなかなか発展しないのも分かるだろうと思う。
Instagramによって変わる世界
そういう状況があるものの、SNSの出現によってアートの広告は大きく変わってきた。
特にMetaグループのInstagramの広告としての効果が絶大になってきたからだ。
これまでは、同じMetaグループのFacebook利用者がコレクターの年齢層と近いことから、主にギャラリーが自社の展覧会情報の告知のためにFacebookを使っていた。
しかし、ギャラリーとの個別な友達つながりだけでは横につながりにくいという問題があった。
それに比べてInstagramは写真とハッシュタグによって「映える」作品が世界中に拡散されるという強みを持っており、世代と国境の垣根を超えてアートを見て買ってもらえるメディアとなった。
Instagramは国内アート界においても初めて具体的な効果が発揮できる媒体となったといえるだろう。
すでに多くのアーティストがInstagramを利用しているが、それはそれだけの効果があるということの証左でもある。
広告で興味ある人にリーチさせる
アートは作品がよいだけで売れるものではない。
また、ギャラリーの持つ顧客層が必ずしも取り扱い作家の作品とマッチしているとは限らない。
SNSのインフルエンサーによる口コミで売れたり、テレビなどのマスメディアで紹介されることで売れることはよくあることだ。
つまり、既存顧客だけでは販売が増える可能性は低く、他の多くの潜在顧客の目に触れないと作家および作品の認知が広がることはない。
例えば、100名の方が展覧会に来て2名が購入するような作家の場合、その作家の購入確率は2%である。
計算上では、1,000名の方にギャラリーに来てもらえると、20点ほどが売れることとなる。
つまり完売させる集客数が計算で成り立つのだ。
さらには、確率論だけでいうと10,000名の来場者があると、200人が作品購入を希望するので、買いたくても買えない待ちの人が後を絶たないということになるのだ。
つまり、その人たちは将来的にオークションなどで高値を付けてくれるお客様になりえるかもしれない。
アートは熱狂的なファンを作ることが重要であるが、そのようなファンがもっと増えるように効果的な広告を利用することで来場者を計画的に増やすことも可能なのだ。
アートは接客だけで売れるものではなく、いくらトークがうまくても顧客が気に入らなければ逆に嫌な思いをさせてしまうものだ。
ギャラリーは来場者に対する購入確率がアパレルなどのショップより少ないからこそ、集客、つまりマーケティング手法がものを言うこととなる。
国内のアート市場が拡大するには、これまでのような既存顧客に対する広報活動だけでは十分ではなく、積極的に効果の高い広告を選ぶことで世代や国境を超えたマーケット施策が重要になっていくだろう。