作品はどのように値付けされるのか
たびたびオークションの落札価格をニュースで聞くが、なぜそのような高価になるのだろうかと不思議に思う人は多い。
アートの持つ価値というのは購入者の競争原理が働くと理性をなくしてしまい、どんなに高くても買ってしまう対象となのだろうか。
単純に自分の好みだというだけで何億円もするアートを買うことに何の意味があるかはお金持ちしか分かり得ないことなのだろうか。
これらの疑問に答えるのは難しいようで、実はすべて経済的な論理に基づいているのだ。
つまり、アートの価格は適当に付けられたものではなく、経済活動が人間の心理に基づいて作られるのと同様にアートの価格も経済学で説明できるものとなっている。
ある程度、経済の世界を知っている人であれば、ここで説明している内容は納得できるであろう。
しかし、なぜアートの価格はこれまでヴェールで隠されてるかのように説明されることがなかったのだろう。
海外の文献をあたると、アートの価格についてきちんと説明されているものがあるのだが、なぜか日本においてはアートとお金を結びつけるのに抵抗があるのか、そのような文献は見当たらない。
実際にアートでお金を得ている人が多くいるし、それを分かっていながらアートがお金と関係しない高尚な文化のような見え方を主張する時代でもないだろう。
アートは文化だというのはよいが、その文化を守るためにはアーティストが食べていけることが前提にあり、文化を守るというのは作品を購入することが最も重要なことなのだ、
アートとお金の関係を誰もが口にする世の中になって初めて、日本が他のアート先進国に近づくことになる。
アートをお金に換算するのは卑しいというような言葉は、アートによってお金を稼ぐことができない弱者の言い訳にすぎないように感じてしまうのだ。
さて、まずはギャラリーの店頭で販売しているアートの価格というものはどのように付けられているのだろうか?
そもそもギャラリーにて展覧会をする最初のアーティストの価格はお試し価格のようなもので、そこには作品に対する価格に大きな意味があるかどうかは分からない。
アートの価格は展覧会で販売した後、その販売回数の頻度が増すことに適正価格へと収れんしていくのだ。
簡単にいうと、よく売れれば価格を上げることができるし、売れないければいつまで経っても据え置き価格のままだ。
全く売れない場合もさすがに表向きは下げることはしないが、実際には常連客には割安でも販売している業者も多い。
ギャラリーのビジネスは1点を売るのにかかるコストは、100万円の作品を売るのも1万円の作品を売るのも同じであるため、少しでも高く売りたいのがギャラリー側の心理である。
つまり、売れる作品であれば、顧客がついて来れるギリギリまで値を上げるということだ。
次に、ギャラリーの手から離れてコレクターがオークションで売買するセカンダリー市場について簡単に言及してみよう。
セカンダリー市場では需要と供給が交差する中で価格が決まるので、ある意味で価格というのは適正化するように見える。
だが実は、オークションとはその場で売れる「最高価格」であり、買いたいもの同士の競争があれば実態価格よりも高くなることもある。
従い、オークションの落札価格は参考程度として認識し、プライマリーで販売される価格はそれより安く売るべきなのだ。
このようにアートの価格は最初にギャラリーで販売されるプライマリー価格と、それが二次市場としてオークションなどで売買されるセカンダリー価格があり、それぞれは密接に関りがあるのだ。
しかしながら、実際にはオークションで取引されるアーティストとは著名な作家であることが多く、ほとんどのアーティストはセカンダリー市場に出ることがなく、プライマリー価格で販売されることとなる。
今回は特にプライマリー価格の構造がどのようになっているかについて説明することで、アートの価格の意味について理解をしてもらいたいと思う。
さて、最初にギャラリーで販売されるプライマリー価格というののは、
①原材料費
②制作にかける人件費
③サイズ
という3つの要素をベースとして、さらにそこに上乗せされる
④付加価値
で決定される。
実はこの付加価値が価格に占めるシェアが大きいのがアートであり、だからこそアートの価格構造は難しいのだ。
特に最初に売る場合の付加価値は作家のそれまでの経歴で判断される。
つまり、経歴がほぼなければ付加価値の部分もほとんどないに等しくなり、原材料費と人件費が主体となる安い価格設定となるのだ。
逆に、高額の作品のほとんどは付加価値の部分だと言っていいだろう。
もちろん、ギャラリーで販売する場合は、ギャラリー側のスペースの家賃、運営費、利益などが加味されるため、作家への支払価格の約2倍が販売価格となる。
付加価値の部分が大きい高額作品が売れると、ギャラリーも儲かるという仕組みなのだ。
さて、次はいよいよアート作品の付加価値部分の構造についてであるが、アートの価格構造【後編】にてより詳細に説明しようと思う。
こちらは有料となるので、ご興味のある方は以下をお読み頂きたい