VIP PREVIEW開催中は会場限定販売となりますので、
VIP PREVIEWにご参加を希望される方は、下記のGoogle Formよりお申込みをお願いいたします。
チラシの裏に生まれた世界
小さな頃の益田由二は、田畑や林を走り回る元気な子どもだった。
そしてその手には、いつも何かを描くための道具が握られていた。
クレヨン、鉛筆、マジック。描く場所はノートではない。祖母が取っておいてくれたチラシの裏や、パンの包み紙。
どんな紙にも、模様や迷路、架空の街や水道管の地図をせっせと描いていたという。
その絵は、動物やお姫様とは違って、どこか“仕組み”を感じさせる不思議なものだった。
今の益田の作品を見てみると、それがそのまま時を経て絵の中で動き出しているように思える。
彼女が描くのは、甲虫の切手、燐寸箱、古い図鑑の一ページのような、不思議で少し懐かしいモチーフたち。
まるで子どもの頃に頭の中で組み立てた世界が、今になって形になったかのようである。
けれど、その「子どもらしい想像力」は、ただの夢物語ではない。
むしろ、ものの奥にある「仕掛け」や「成り立ち」に目を向ける力。それこそが、益田由二の作品の芯になっている。
ペンの線がつなぐ、からくりの宇宙
益田由二の作品を見ていると、不思議な感覚に包まれる。
どこかレトロで懐かしいのに、新しくて精巧。まるで、止まった時計の中で小さな歯車たちがゆっくりと再び動き出すような、静かな感動がある。
その秘密は、彼女の制作方法にある。
まず、作品はすべて下絵から始まる。紙に原寸大でガラスペンを使ってフリーハンドで描かれた細密な線。
インクのにじみや線のかすれもそのまま味わいとして活かされる。そしてスキャナーで取り込まれた絵は、パソコン上でデジタルに再構成され、多色刷りのようにレイヤー分けされていく。
ここで面白いのは、印刷される最終形が「全部同じ」ではないことだ。
色の調整や線の書き足しは毎回違う。そのため、完成した作品は一枚ずつ個性を持ち、少しずつ異なる表情をしている。
まるで、似た形の部品でもそれぞれ違う動きをする歯車のようである。
こうした工程のすべてが、かつて印刷会社や写真ラボで培った技術や視点とつながっている。
デジタルとアナログの間で、何層にも重なったイメージがひとつの画面に閉じ込められている。そこにいるのは、虫や道具や図案たち。しかし本当に描かれているのは、「仕組み」や「過程」そのものである。
からくりの奥にある、美意識という遺伝子
2015年、台湾での初個展を経て、益田由二のまなざしは「日本の美意識」へと向かった。
古典文学を読み直し、日本画の技法を学び、そこから作品の線がさらに研ぎ澄まされていく。
特に大切にしているのが、「骨描き(こつがき)」と呼ばれる輪郭線を引く技法。これは日本画の基礎でもあり、彼女にとっては“設計図”にあたる。
最近の作品では、生物と人工物が交差する「Xing(クロッシング)」というテーマにも取り組んでいる。
そこには、はっきりとした形を持つものと、曖昧でとらえどころのないものが同時に存在している。
まるで夢と現実の間の世界。そこではペンの線だけでなく、水彩、アクリル、金泥などさまざまな画材が何度も塗り重ねられ、独特なテクスチャーが生まれている。
この重なりこそが、今の時代における「日本らしさ」の新しい形ではないだろうか。見た目だけではない。
そこに込められた仕掛け、プロセス、そして見えない奥行き。それらすべてが、彼女の作品を「語れるアート」にしているのだ。
益田由二の作品を眺めていると、紙の上に生まれた「もうひとつの日本」が見えてくる。
静かで、緻密で、そして少し可笑しみもある。家の壁に一枚飾れば、その奥にあるからくりの世界と毎日出会える――そんな贅沢が、あなたの暮らしにもやってくるかもしれない。
Schedule
Public View
4/19 (sat) 11:00 – 19:00
4/20 (sun) 11:00 – 17:00
|
|
|