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見えるものと、見えないもの
西川美穂が長くテーマにしているのは、「見えるものと見えないもの」である。
「見えるもの」は、たとえば人物の輪郭や服、モチーフとして描かれる物体の形や色である。
一方、「見えないもの」は、記憶や感情、時間といった、目でははっきり捉えることができないものを指す。
彼女の代表作「イマスカ」では、真っ赤な布が何かを覆っている。
その「中身」は明らかにされていない。しかし鑑賞者の多くが、その布の中に「何か」を感じ取ってしまう。
それは過去の記憶だったり、自分にとって大切だった人の面影だったりする。「見えないものを想像させる」──その力を作品が持っているのである。
この「イマスカ」という作品は、ある転機をきっかけに多くの人の目に触れることになった。
お笑い芸人であり作家の又吉直樹が芥川賞を受賞した小説『火花』の装丁に、この作品が採用されたのである。
200万部を超えるベストセラーとなったこの小説の表紙を飾ったことで、西川の名前もまた多くの読者の記憶に刻まれることとなった。
美術大学院の在学中に描かれたこの作品は、最初から評価されたわけではない。
しかしART BOX大賞を受賞し、画集に掲載されたことが、装丁採用のきっかけとなった。
西川自身にとっても、「絵で生きていく」ことを決意する重要なタイミングとなった作品である。
どう描くか──制作と技法
西川美穂の作品は、感覚だけで描かれているわけではない。
制作には明確な手順とこだわりがあり、それが作品の奥行きを生み出している。
まず、彼女は常にスケッチブックを持ち歩き、日々の中で思いついた構図やイメージをラフスケッチとして描きためている。
その中からモチーフを選び、白いキャンバスに向かうのは、夜や早朝など集中できる静かな時間だという。
油彩作品では、筆跡が画面に残らないよう、豚毛のような硬い筆は使わず、柔らかな羊毛やコリンスキーの筆を用いて、絵具を丁寧に何層も塗り重ねていく。
塗り重ねによって生まれる色彩の深みと透明感が、作品全体に繊細な空気を与えている。
特に西川は、「油絵具」そのもの以上に「油」の扱いを重視している。
絵の耐久性や色の変化は、使用するオイルの質によって大きく左右されるためである。
絵具は複数のメーカーから選び、それぞれの性質を把握した上で、仕上がりや季節に応じて調整を行っている。
また近年は「たらし込み」と呼ばれる技法も再び取り入れている。
これは、水やオイルを多く含んだ絵具をキャンバスに落とし、偶然にできるにじみや広がりを活かす技法である。
若い頃に挑戦したが思うように扱えず一度は手放したが、今になって再挑戦することで、偶発性と計画性が共存する新たな表現へとつながっている。
制作は自宅の一室で行われ、自然光の変化も作品の色調に影響を与える。
時間帯や天気によって異なる光のもとで描かれることで、作品にはわずかながら「時間の層」も重なっていく。
仕上がった作品の側面に、最初に使われた色が残っていることもあるという。その過程まで含めて作品を見ることは、絵に込められた時間や試行錯誤を感じるひとつの手がかりになるだろう。
記憶とともに暮らすということ
西川美穂の作品は、観る人に静かな問いを投げかける。
「これは何だろう?」「どこかで見たことがあるような……」。
その問いに対する答えは、作家ではなく鑑賞者自身の中にある。
彼女のもうひとつのシリーズ「まくらちゃん」は、青くて不思議なキャラクターである。
シュールでユーモラスな見た目だが、どこか懐かしさや親しみを感じさせる。
西川がつわりで寝込んでいたとき、自身が枕と一体化しているような感覚の中で生まれたキャラクターであり、見る人にとっても“誰か”に寄り添う存在として心に残る。
こうした作品は、ただのモチーフではなく、「記憶」と結びついている。
かつて大切だったもの、今もそばにあるけれど忘れかけているもの──そういった心の奥の感情を、絵という形で思い出させてくれるのが西川のアートである。
作品を飾るという行為は、単に美しいものを所有することではない。
自分の中にある「見えないもの」を、そっと可視化し、毎日眺めるという選択でもある。
アートを生活に取り入れることは、特別なことではない。まるで、テーブルの上に季節の花を一輪飾るように。西川の作品もまた、暮らしの中に小さな発見や変化をもたらす存在である。
そしてもし、彼女の作品の中に「あ、これが好きだ」と思える一枚があったなら、それはきっと、あなたの記憶のどこかと静かに結びついている証拠である。
Schedule
Public View
4/19 (sat) 11:00 – 19:00
4/20 (sun) 11:00 – 17:00
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