若手アーティストという場合、ここでは20代以下ののアーティストについてお話をしたいと思う。
日本国内では30代のアーティストはまだ若手なのかもしれないが、海外ではすでに中堅であるからだ。
さて、国内の若手アーティストは現在、かなり厳しい境遇にある。
そもそも出口としての就職が芳しくないこともあって美術大学は男子学生から敬遠されがちになっており、ほぼ女子大化しているのは周知の事実であろう。
美大を卒業しても定職にはつかずプロを目指すというのは大いなるチャレンジであるが、今は以前よりずっと厳しい状況にある。
日本のコマーシャルギャラリーが取扱いアーティストの数を増やせないことが一番の問題であり、所属するギャラリーがないまま空中に浮いたままになっている若手アーティストが増えているということである。
現在、都内にある現代アートのコマーシャルギャラリーの数は100軒くらいしかなく、1ギャラリーあたり平均20名が所属アーティストとした場合に約2000人ほどがギャラリーに所属の作家という狭き門である。
しかも、そのギャラリーが取り扱うアーティスト数が飽和状態にある中でますますチャンスがなくなっている状況だ。
ギャラリーにとっては、売上が上がらないので新規のアーティストを増やせない、という悪循環に入っており、抜け出すのには時間がかかりそうだ。
国内の景気がよくなる気配が見えない中で、アジア特に中国のアート市場が牽引しているグローバルなアート市場は逆に成長が止まらない。
そんな状況においても、いまだ国内市場にとどまっているギャラリーが多いことから、アーティストはいつまで経っても貸しギャラリーでの展示しかできずプロのアーティストへの道は閉ざされたままだ。
では、作家自らが直接海外に行けばよいのであるが、通常は海外のギャラリーも現地に居住しているアーティストが優先となるゆえ、チャンスはなきに等しい。
現地に居住していない場合に、日本のギャラリーが代理人として機能できる場合もあるにはあるが、その可能性はかなり低いのが実態だ。
このように若いアーティストにとっては、プロとして食べていく状況は厳しいのだが、タグボートとしては千載一遇のチャンスと考えている。
タグボートは狭いながらもギャラリースペースを持ってて毎月展覧会を開催しているが、販売の主戦場はウェブサイトである。
ウェブサイトはリアルのギャラリースペースと違って何作品でも展示可能で24時間販売しているので、アーティストのマネジメントさえできれば所属作家をいくらでも増やすことができる。
つまり、才能があってもそれ活かすことができないアーティストがごろごろしている中で、タグボートが一気に所属作家として取扱いアーティストを増やすことが可能なのだ。
しかしながら、それでも所属ギャラリーに恩義を感じてか、複数のギャラリーでの展示販売をしないアーティストが多くいるのは驚きだ。
そもそも論として、アーティストは所属するギャラリーと独占契約を書面で交わしてなければ、ひとつのギャラリーに縛られる必要はないのである。
ひとつのギャラリーに縛られると販路が限定され、自らの首を絞めることにもなることを知らないといけない。
義理堅いのは美しい姿かもしれないが、そんな義理人情よりもアーティストとして食べていけるように複数のギャラリー経由で販売するほうが売上も上がるし賢明であろう。
いずれにしても、能力のあるアーティストが力を発揮できないまま制作活動をやめてしまうことになるのを避けるために、我々業界の人たちが努力しなければ、この流れは止められない。
今年タグボートは20代の若手アーティストだけで、15名を新たに取扱いアーティストとして加えることとなった。
取扱いの平均年齢はぐっと下がり、売上単価もそれに応じて下がりはしたが、今後は販売状況に応じて価格を上げていくし、やはり作家の成長を感じられることはコレクターにとっては面白いことこの上ない。
アーティストとコレクターは、スタートアップ企業とエンジェル投資家のような関係に似ており、そうであれば、やはり成長の伸びしろに魅力を感じるのである。
コレクターが安定的にアートの投資をするのであれば、すでにオークションハウスのカタログに出品しているようなアーティストの作品を買うのがよいだろうが、そこには将来大きく化けるような期待感やドキドキ感は存在しないだろう。
一方、中国では多くの若手アーティストの青田買いや、アーティストへのパトロン支援が増えており、日本との差が歴然となりつつある。
アジアの若手アーティストが活躍できる場として、中国人アーティストが資金援助を得て欧米へと移住したりと広がっていく中、日本人アーティストだけが置いてけぼりをくらっているのはタグボートとしてはやはり悔しい思いを感じている。
海外での規模の大きなスペースで展示をして露出を増やすとともに、ウェブを通じたプロモーションをもっと積極的に行うことで、一人でも多くアーティストが食べていける環境づくりにまい進していきたい。