展覧会をすることの意味はアーティストの世界観を見せることにある。
作家が作った作品を単に陳列して販売するのではない、それではスーパーで商品を販売しているのと同じであり、買う場としての無機質なものとなってしまう。
展覧会は作家の世界観を広げる場でなければならない。
グループ展で数点の作品を見せるだけではその作家の世界観を見せることは難しい。
作家の世界観とは作家のもつ個々のキャラクター、コンセプトの面白さ、メッセージを鑑賞者に伝える場所なのだ。
従い、展覧会の企画は作品のディーリングとはまったく異なる作業となる。。
基本的には個展、多くても二人展までであり、二人展はそれぞれが相乗効果を果たすべきときにのみ世界観は発揮できるが実際には難しいことのほうが多い。
タグボートは昨年より小さいながらもギャラリースペースを持ち、月に一度の展覧会を開催していたのであるが、基本的には作家個人の意志を尊重し、空間の中で自由に表現をしてもらっていた。
しかしながら、実際には作家が展覧会までに作った作品を展示するだけに終わってしまう場合も多かったの。
展示スペースを埋めるのに十分な作品を作り、それを見せることだけに終始してしまったことは、作家の世界観を見せるには十分とは言えなかったのでは、と反省している。
ギャラリストは展覧会作りの最初の段階から積極的に関与し、重要な部分はギャラリストが決めながらも、作家と喧々諤々の議論をしなければいけないのだ。
というのは、一般的にはギャラリストは様々なアートの世界で展覧会を見たりすることで経験豊富であり、だからこそアーティスト毎にどのような展示にすべきなのかが理解できているはずなのだ。
しかし、実際には日本のギャラリストは、展示方法についてはほぼアーティスト任せっきりにさせすぎているのでは、という危惧を感じたのだ。
本来ならギャラリストの役目はそのアーティストの作品を見せ方のキュレーション部分にまで踏み込むべきであり、展示方法をアーティスト任せにするのは仕事放棄であろう。
日本はコマーシャルギャラリーより貸しギャラリーのほうが多いという事情から、アーティストのほうも自分のお金で借りたスペースだから全て自分でその展示コンセプトの見せ方から展示方法まで決めることが普通であった。
その流れがあってギャラリーがアーティストに展示企画まで任せることになっているのかもしれない。
しかしながら、アーティストのプロモーションについては、当然ギャラリストが責任を追う立場であり、作家のキャラクター作りやブランディングまでも両者の協力で行わなければならない。
従い、アーティストの作品に関するステートメントについても、ギャラリストが解読不能な部分をときほぐし、分かりやすく理解できるところまでコンセプトを磨き上げたりすることが仕事なのだ。
どうしても観念的あるいは抒情的に作品をとらえるアーティストが多い中、それをどのように伝えるか、そして多くの顧客から共感を得るようにできるかがギャラリストの腕に関わっている。
アーティストの素材のよさだけに頼っていてはいけない。
素材を磨き、アップグレードしていくことを手伝うことこそがギャラリストの仕事なのだ。
さて、東京は土地代が高いこともあって、貸しギャラリーが数多くのアーティストに1、2点ずつ作品を出品してもらってグループ展を開催していることがあるが、あれでは作家の世界観というものを到底感じることができない。
作家の世界観は販売作品を並べるだけでなく、閉じられた空間の中で体感的に作品を感じるような工夫をすることも必要だ。
販売自体はウェブサイトでもよいし、それよりも作家の表現したいことをその空間で体現できるようにすることこそが大事なのだ。
海外の展覧会ではほとんど、キャプションに価格が付いていないのが当初不思議であったが、それは作家の世界観を阻害するものだからであり、別に価格を隠したいからではない。
逆に言うと、作家の世界観を見せる展覧会をせずに、単に制作した作品を並べているギャラリーはきちんとした仕事をしてないということだ。
さて、日本国内ではアートのプライマリー市場が小さいため、海外での販路を広げるとなると、展覧会で作家の世界観を見せることの重要さはさらに顕著となる。
というのはタグボートはウェブサイトで販売しているため簡単に情報が国境を越えることができるが、PCやスマホの画面の中だけではアーティストの世界観を十分に表現することは難しいのだ。
だからこそ、我々は海外で作家の持つ世界観をリアルの空間で体験してもらわなければならない。
しかもグループ展で全体の世界を見せながら個々のアーティストを感じてもらうためにはかなり広いスペースが必要だ。
今回、台湾の台中市にあるDali Art Plazaでは1,900平米の展示スペースにて28人の展覧会を行ったので、一人当たりではかなりの空間を使えたのだが、インスタレーションを中心とした展示ではそれでもまだ十分とはいえない。
インスタレーションにはかなりの広い空間が必要であり、個別のギャラリーでそれを行うには空間的な制限があり難しい。
成長するアジア、特に中国の美術館といった大きな箱をターゲットとして、個々のアーティストの世界観を体感してもらう展示が必須であることを強く感じた。
今後もやるべきことは山積みであり、目の前にあることをやり続けるのみだ。