アート作品を販売する業者にはおおまかに分けて2種類のスタイルがある。
主にプライマリー(一次販売)作品を取り扱い、アーティストのプロモーションをしながらギャラリースペースで展覧会を行う人をギャラリストと呼ぶ。
それに対して、主にセカンダリー作品を取り扱い、顧客のニーズに応じて作品を調達し売買利益を得る人をアートディーラーと呼ぶ。
業者を言葉で定義する上ではそれぞれの仕事内容は明確に違う。
ギャラリストは、作家側の立場で彼らの世界観を見せる展示スペースを作る役目を持つ。
また、コレクターや美術関係者などに作家の持つ魅力を余すところなく伝えることも重要な仕事だ。
同時に作家の作品のアーカイブを管理したり、作家の悩み相談まで受け付けてしまうこともあるのだ。
一方、アートディーラーはギャラリストとは対極に、顧客側に立つ役割を持つ。
作品はあくまで「商品」であり、顧客が望む商品を様々なところから調達したり、先回りして提案したりするのが仕事だ。
たまにはアートと関係ないような顧客の悩みを聞いたりすることもあり、顧客対応に最も貴重な時間を使う人たちである。
ギャラリストは作品=作家とみなし、アートディーラーは作品=商品とみなすところが特徴的であるなど、それぞれのアートに対する視点や得意分野は微妙に違う。
しかしながら、最近はアートディーラーのように顧客の側に立ちながら、アーティストをプロモートするギャラリストも出てくるなど多種多様になってきているのが実情である。
例えば、広告会社やパブリシティ出身のギャラリストは顧客の側に立っていることが多く、学芸員出身者よりも活躍の場を広げやすいようだ。
英国の大手広告会社・サーチ&サーチのオーナーであり同時にギャラリーを運営するチャールズ・サーチは90年代の英国の若手アーティストをプロモーションすることに成功しているし、顧客心理を読むことについて長けていることは間違いない。
顧客の動向を察知し、それに応じた品揃えができるところが強みである。
また、作家の特徴をわかりやすく印象的に顧客に伝えることについても得意であろう。
顧客の立場と作家の立場をバランスを取りながらビジネスを展開することが重要であることがよくわかる。
今後はギャラリストの機能とアートディーラーの機能のそれぞれよい部分を持ちながら、「新しいライフスタイル」を提案する場が広がるのではないかと思われる。
ここでいう「新しいライフスタイル」というのは、ちまたでよく言われる「アートとインテリアを融合させた生活」といったようなことではない。
どちらかというとその真逆である。
アートを通した新しいライフスタイルとはどのようなものかをここで考えてみよう。
まずは、アートを見るだけではなく購入することによってライフスタイルの価値を高めていくということだ。
そこで重要なのは以下の2点である。
1)個人のセンスが反映されたアートを購入すること
2)購入した作品の価値が上がっていくことで資産的にも裕福なれること
上記のようなライフスタイルを目指そうというものだ。
個人のセンスというのはインテリアに合わせたチョイスというファッション的な意味ではない。
インテリアに無理に合わそうとすると、無味乾燥で主張のない作品ばかりになって面白いはずがない。
それよりも社会の時代背景を反映していたり、誰も手掛けたことにないインパクトの強い作品であったりすることにセンスが生かされるのだ。
さらには購入された作品が将来的に付加価値を生み、高く売れる作品をコレクションしていくことで、より精神的にも金銭的にも満足できるライフスタイルを目指そうということである。
この新しいライフスタイルは従来のパトロン的なものともまた違う。
パトロンは将来のあるアーティストの生活を金銭的に支えることに意味があるのだが、現在は一人のアーティストを限られた数のパトロンが支えるという図式は崩壊しつつある。
コレクターが様々なギャラリーからアートを買うことが増えており、一人のアーティストに執着しなくなっているからだ。
コレクションが個人のセンスそのものを表現するものであれば、多種多様な作品を集めることにもつながるだろう。
新しいライフスタイルは、アートによってセンスと資産の両方を満たすということであり、生きたお金を使うことで個人の生活を豊かにするということだ。
これからのギャラリストはアーティストの代理人としてその才能を世に問うために展覧会を開き作品を売るだけの仕事ではなくなってきている。
顧客のライフスタイルをよりよくすることを考える時代にきているということだ。
個人的な趣味嗜好が反映されたギャラリーでもよかった時代から、ライフスタイル提案型のギャラリーへと進化していくに違いない。
さらには、アートディーラーやギャラリストという職業の範囲にも明確な違いがなくなっていくであろう。
これからはまさに、顧客とアーティストの両方を知り尽くしたプロフェッショナルのみが生き残っていく時代へと変わっていくに違いない。