同世代を圧倒する分量とスピード感で精力的な活動を繰り広げ、「人が人と関わった時に生じる間」を描き続けてきた濱村凌。2021年3月に開催予定のアートフェア「tagboat art fair」に出展が決まり、10mもの壁を使った広いブースでの展示に向け着実に準備を進めている。今回は人形町オフィスにてタグボートの徳光と寺内も加わりインタビュー企画が実現。前編では、濱村凌にとって成長のー年になったという2020年を振り返り、コロナ禍を経て変化した自分自身と作品について語ってもらった。後編では今後のアーティストとしての目標、そして「tagboat art fair」の展示に向けた想いを聞いた。
取材・文=星野 撮影=寺内
前編: 濱村凌にとって成長の年となった2020年。コロナ禍を経て変化したアーティストとしての姿勢とは
ー2020年は今までと違った活動や制作方法のアプローチに取り組まれたようですが、今後のアーティストとして目指す方向性については心境の変化はありますか?
目指してる方向性はずっと一緒なんですけど、それが今年になって強化されたような感覚はありますね。僕は作家としてどんな風になりたいかというと、世界のトッププレイヤーになりたいんです。でも、実際に海外で成功して帰ってきた世界的に活躍するアーティストが、アートシーンにおいて自虐的なことを言ったりするのを見るとそれはそれで悲しいなと思っていて。僕は世界のトッププレイヤーになったら、もっと夢のあることを言っていいんじゃないかと思うし、夢のあることを言えるようになりたいんです。それをまた若い世代に見てもらって、次に続く日本のアート業界を盛り上げたいという気持ちもあります。
ー濱村さんは25歳というご年齢でまだお若いですが、次の世代を応援する気持ちで活動されているんですね。
(徳光)特に、今の日本は若者にとって今後に不安を感じるような国だしね。日本は高齢化社会なので、政治についても人数も多くて投票にも行く高齢者を重視した政策が多いし、高齢者を中心に社会が回ってる。コロナになってからすごく感じたのは、若者は高齢者の方を守らなければいけない一方で、今回の自粛要請などによって経済が止まってしまうような事態が起こると、これから経済を背負っていく若者にとって夢を見るのって難しくなるよね。
ただ、経済的に余裕がある30~40代の若い人たちがもっとお金を使うようになれば、世の中は盛り上がっていくんじゃないかと思う。濱村さんが描くような抽象画みたいに、ぱっと見理解しにくいものは若い人達の方が受け入れやすいしね。
ー濱村さんも、夢を見にくい世の中だと感じますか?
日本のコレクターの方や、これからアートを買おうという方たちと話してて思うのが、投資という考えをしない人が多いですね。投資という意識があったとしても、ちょっと投資してちょっと儲けるという考えの人が多いように感じます。僕は自分が世界のトップスターになろうと思って頑張ってるんだけど、あんまり日本でスターを求められてる感じがないんです。僕が期待してるのはどちらかというと、大化け株を狙うような投資の形に近いんですね。例えばコレクターの人が100人の作家に投資したとして、そのうち4人か5人がトップアーティストになれば利益がとれるような。僕はその4人や、5人になることに夢を持ちたいんです。
ー海外のコレクターの方からは、求められるものに違いを感じますか?
どちらかというと、海外で活動しているときの方がスターになることを求められている感覚はありますね。海外のコレクターの方が期待しているのは、まだ安いうちから作品を買っておいたアーティストが、そのうちスターになってめちゃくちゃ活躍して、作品の価値も値段も大化けして何千万とか何億とかになるような。それだけじゃなくて、そんなやつと俺は知り合えたんだ、みたいな楽しみ方を期待されているように感じる。他にも、僕は「世界一になる」とか「ビッグになる」とかわざと言葉に出すようにしているんですが、その時の反応は海外の人と話してる方が前向きなリアクションが返ってきますね。「おー!そうか。じゃあ何ができる?」みたいな。
(徳光)「世界一になる」って、日本だと膨らまして言っているように受け取られたりするよね。
ちょっと話は変わっちゃうんですけど、僕は「食べていけるアーティスト」ってゆう言葉が好きじゃないんです。「食べていける」で終わるんではなくて、僕はその先に「フェラーリをゲットする!」とか、そうゆう夢も持ちたいんです。アーティストとして食べていけるようになった先に、じゃあ何をする?ってゆうことを考えたいですね。
ー「食べていけるアーティスト」という言い方は、「アートって食べていけないよね」というネガティブな考えが前提にもなっていますしね。
そうなんです。僕は、アーティストってお金持ちになれる夢のある職業だと思うんです。中国はそうゆう捉え方が浸透してるように思うんですね。「フェラーリをゲットするためにアーティストになるぜ!」みたいな。日本でいうと「プロ野球選手」のイメージに近いのかもしれません。
(徳光)濱村さんは、学生時代から作品を売ろうとしてるよね。そこは杉ちゃんチックだよね。杉ちゃんも大学生のときから作品を売っていて。でも美大生の中にはそうじゃない人もいて、モラトリアムを楽しむ人もいる。卒業後も、定職に就きながら土日に描いて、ってゆう人もいるよね。アーティストとしてのスタート地点はみんな違っていいと思うけど、上を目指すなら、早ければ早い方がいいと思う。30歳を過ぎて焦りだして本格的にアーティストとして制作を始めようという人は、少し遅い感じがするかな。起業と一緒かもしれない。(杉ちゃん=杉田陽平:タグボートの取扱い作家。若手ながらも完売作家の異名をとるほどの実力者)
そうですね。アートって年齢制限がないように見えて、めちゃくちゃあるんですよ。具体的にいうと35歳。35歳過ぎると、いっきにコンペに出せなくなるんですね。応募条件に「35歳まで」と書いてあるコンペも多いんです。
ー35歳までが「若手アーティスト」として受け入れられるような実態があるんでしょうか。
そうかもしれないですね。若手応援ってゆう意図があるのかもしれない。もちろん年齢制限がないコンペもあるんですが、圧倒的に募集している数が減るように思います。
あとは、30歳のあたりが一番アーティストを辞めやすい年齢にも思いますね。
(徳光)そうだね。
結婚があったり、子供ができたり。それを考えると、できるだけ早くから頑張っといた方が、あとが楽だと思ってます。
「絵画は水面のように」濱村凌, 22 x 27.3 cm, 2020
ー2021年3月に控える tagboat art fair は、タグボートで活躍する錚々たるアーティストの出展が決まっています。濱村さんもその中の一人として作品制作を進めていただいていますが、どのような展示をイメージされていますか?
ブースの壁の広さが、10mあるじゃないですか。結構大きい空間だと思うんです。どうゆう展示にしたいかというと、ブースに足を踏み入れた瞬間に、震えさせるというか。ぶっちぎった作品力があれば、どんな人にも心に刺さると思ってるんです。そういうぶっちぎったものを見せて、全身鳥肌立つじゃないけど、そんな展示がしたいんです。
作品サイズに限って言えば、小さい作品は一切展示しないです。海外のアートフェアみたいに、平均が100号。それくらい大きい作品をダーッて見せて、どうだ!ってゆう。メジャーで160キロ投げる!みたいな。
ー制作はすでに始められてるんですか?
今はまだ一切してないです。1月になってから描き始めるって決めてるんです。12月までは、肉体改造のイメージですね。160キロに耐えうる身体を作る。
ー160キロに耐えうる身体とは・・・?(筋トレ?)
いや、僕今めっちゃ運動してるとかじゃないですよ(笑)
どんなことを自分の中にインプットするかというような、自分自身を内面からひたすら鍛えるようにしています。
ー具体的には、どのようなことに取り組まれてますか?
まず、基本的なことなんですけど、トップギャラリーを見て回ってます。見るだけじゃなくて、一歩踏み込んでギャラリストと話し込んで、最近のアート市場や活動について聞いたり。他には世界レベルの日本のアーティストの展示やトークをすごい観察するとか。今コロナの影響で日本のアーティストが凱旋してきてるんで、そういった機会が増えてるんですね。なんならアーティストご本人とちょっと挨拶できたりするんです。そのちょっとした挨拶ができるだけでも、僕にとっては得るものがあるんです。
(徳光)その取り組みは相当大事だと思う。いろんな作品を見てると、本当にいい作品って強度みたいなものがあると思っていて、それってたくさんの作品を見ないとわからなかったりするのね。あえて他の作家の作品を見ないアーティストの人もいるけど、その強度がわかるかどうかって作る側にとってもすごく大事だと思う。”強度”ってゆうのは、繊細な作品にも、ぶわっと描いたような大胆な作品にもあると思っていて。その感覚を掴むためには、絶対いい作品をたくさん見るようにしたほうがいいと思うよ。
「崖をみつめるとき」濱村凌, 22 x 27.3 cm, 2020
ー”強度”という感覚は、濱村さんにもありますか?
ありますね。今、僕は月に100は展示を回ってるんですけど、最近では渋谷パルコで開催されていた山口歴さんの『YOUR OLD FIREND』という展示が一番強度を感じましたね。すごいかっこいいんですよ。顎を殴られるようなショックを食らったというか、そういった強度を感じた展示でした。たぶんアートが分からない人にも伝わるんじゃないかと思いますね。
ただ、同じ作家さんでも、そのときの展示の条件だとか状態によって強度の感じ方には差があると思っていて、ぶっちぎった展示と出会うためには、何回も足を運ぶ必要があると思っています。
ーその差は、作品自体の魅力や、空間が与える影響、観る人の状態など、どんなことが要因になっていると思いますか?
そうですね。いろんな要因があるかもしれないんですけど、一番は、作家本人がその展示で何を実現したいのかってゆう気持ちの部分じゃないかと思います。渋谷パルコでの山口歴さんの展示は、ブルックリンの制作スタジオを再現するという空間演出がされていたんですね。しかも「十年前の自分が観たら食らうような展示をする」というような内容のコンセプトが明確に書かれていて。渋谷パルコという場所の展示空間の自由度も良かったんだと思います。
ーtagboat art fair では、ブース空間を自由に使っていただけますね!
そうなんです!そんなぶっちぎった展示を僕も見せたいと思います。
ー最後に、数年前から濱村さんを知っている寺内さんからも一言お願いできますか。
(寺内)濱村さん、前よりずっと、すごく心地いい話し方になりましたよね。私はアーティストとして成熟すると、いい語り方になっていく方が多いと思ってるんですね。濱村さんは今年になって色々と学ばれたというか、いろんな人に出会って感化されて、素敵な語り方になっているなと思いました。ずっと聞いていたくなるような話し方というか、そういうアーティストは人を惹きつける力があるので、今後のご活躍も期待しています。
開催日程
2021.3.6 (土) – 2021.3.7 (日)
会場
東京ポートシティ竹芝 3F
東京都立産業貿易センター浜松町館
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