上海・朱家角にあるアーティスト・イン・レジデンス「タイガーハウス」では、2〜4人のアーティストが滞在しながら作品の制作に励んでいます。
先日、レジデンスに参加しているアーティスト4人で「今回のレジデンスと、それぞれの新作について」をテーマに座談会を行いました。
この記事では、その様子を、先週の「その1」に引き続き、「その2」をお届けいたします!
宮城県生まれ。2010年東京藝術大学大学院修士課程修了。独自の空間概念を軸に、色面による新たな表現を模索している。また、ポートレイトや眼の虹彩といったシンボリックなモチーフを通して、人が何かを識別するということへの疑いや問いかけをテーマに作品を制作する。
坪山 小百合
福岡県生まれ。2010年に東京藝術大学大学院を修了後、福岡に拠点を移し、絵画作品の制作と発表を続けている。植物と人をモチーフに、生物の普遍的な要素である美しさや本能を描く。
東京都生まれ。2013年、武蔵野美術大学油絵学科版画専攻卒業。
手描きをメインに、繊細かつ力強い画面づくりを目指し、アーティストのミュージックビデオやアートワーク、テレビ番組のアニメーション、装丁のイラストなどを手がける。映像作家100人 2015(BNN出版)に掲載。
静岡県生まれ。武蔵野美術大学造形学部空間演出デザイン学科ファッションデザイン専攻卒業。卒業後東京にて3DCG制作者として数年間働き、その後本格的にアーティスト活動を始める。東京、上海、ヨーロッパ、アメリカ各都市などさまざまな都市での展示を通して活動の場を世界に広げつつある。
「その1」をまだお読みでない方は、こちらからどうぞ。
上海アーティスト・イン・レジデンス レポート~アーティスト4人による座談会~(その1)
中村 綾花
中村 綾花 《 Echo 》2019 アクリル絵具、キャンバス
小百合:中村さんが今描いている絵は、どういう流れで生まれたんですか?どういうところからイメージが出てきたのかが気になっていました。
中村:私は元々、テーマが『動きとレイヤー』で、命の動きを描きたいと思っていて、最初は普通に草とか、鳥とか、光とかっていうのをちゃんと分かりやすく描いてたんです。それが手グセによってどんどん崩れていって抽象的な画面になっていったという感じです。大体は歩くなかで、写真を撮ったり映像を撮ったりというところから初めます。そこから色味と、どこに色を置くかっていうバランスを考えて、スタートをします。そして線をどんどん足していったりっていう動きをつけて。
中村 綾花 《 small sun 》2019 アクリル絵具、キャンバス
小百合:じゃあ、今回の絵は朱家角を描いているんですか?
中村:そうです。ただ、1日で描けるとかではないので、その時々によって今まで撮ってきた写真を見たりっていうのをやってます。だから1枚の写真から絵が作られるんじゃなくて、ストックしてきた写真の中から色とバランスを取ってくるということをやっています。
小百合:なるほど〜。そうなるとタイトルをつけるのが難しくないですか?
中村:そう、難しい!なので、番号をタイトルに使ったりします。タイトルつけちゃうと、誘導されるじゃないですか。逆にそういう効果が得られる分それにしか見えないっていう絵になっちゃうんで、そこは臨機応変にやっています。
小百合:そうだったんですね。お話を聞く前は、中村さんの絵は特別な場所をずっと描いているのかと思っていました。
中村:最初はそれをやってたんですけど、絵の具でやるとすごくつまらなくて。なので、同じ色調の中に何か違う色を置いたりしていくうちに、写真と組み合わせて描くようになっていきました。
坪山:なるほど、それで色々な風景がレイヤーとなって重なっているわけですね。
中村:そうなんです。
坪山:中村さんは、素材は今はアクリルを使っているんですか?
中村:アクリルですね。あとはポスカの白と黒、あとカラー付きも使ったりしてます。スプレーもたまに使ってますね。私はレイヤーとしていろんなものを重ねて表現しているので同じような出方を作るとつまらないなーっと思っているんで、いろんな画材で違うタイプの線を描くということをやっています。
シムラ ヒデミ
シムラ ヒデミ《Tension (Balanced) 》2019
中村:シムラさんは、作品全体のテーマとかってあるんですか?
シムラ:作品全部の大まかなテーマは、『人と人の関係』『人とものの関係』『物とものの関係』ですね。
坪山:糸がそれぞれをつなぐようなイメージですか?
シムラ:今作っている工事現場の素材を使った作品はそういうイメージで、『人と人の関係』を表しています。色がついている作品は、写真を元に作っているので、世界そのものを凝縮しているイメージです。
シムラ ヒデミ《Boundaries -Cherry Blossom-》2019
シムラ:私の作品は、近くで見ると合わなそうな色と色が隣同士になってたりするんですけど、それが遠くから見ると意外と調和して見える。そういうところが世界全体を表しています。隣同士合わない人がいるけど、遠くからみたら同じ人間というように。
坪山:合わなそうな色っていうのは、シムラさん的に合わないっていうことなんですか?主観的な?
シムラ:写真を見ながら作っているから、自分で色と色を合わせたりは全然していないので。
坪山:なるほど。自分だったら絶対合わせないのにという意味ですね。
シムラ:糸ってもう色が決まっているじゃないですか。絵の具みたいに混ぜられないから、ある色で合わせるしかなくて。糸は500色くらい持っています。
中村:シムラさんの作品は、色付きのアクリルを切ってまた繋げて磨いているのかと思っていました。そしたらそれが実際見ると糸だったんでびっくりしました!近寄ってみたら違ったっていうサプライズ感が強い作品だと思いました。
シムラ ヒデミ《ParallelWorld(MINI_6)》2019
坪山:そもそも、糸を使い始めたのはいつごろなんですか?
シムラ:大学を卒業する頃ですかね。もともとファッションデザインを専攻してて。
坪山:そのまま糸を素材として作品を展開していったんですね。
シムラ:そうですね。
中村:素材の組み合わせって最初から考えているんですか?それとも一つ作ってから足していくんですか?
シムラ:結構最初からですかね。
坪山:ある程度エスキースで、ここは紙にして、ここは糸にしてみたいな、決めちゃうんですか?
シムラ:私、エスキースとか全然やらないんです。
小百合:えーそうなんですね!展示方法については事前に決めているんですか?
シムラ:えっと、その場で考えますね。その場で実際にやってみて。
坪山:展示も制作も感覚は一緒という感じですね。
シムラ:そうですね。以前は、しっかり図面と寸法をイラスレーターとかで決めてたんだけど、なんか結局寸法通りにできないから(笑)その場で決めています。
中村:坪山さんと小百合さんはもうすぐレジデンスが終わりますが、今回のレジデンスに参加してみてよかったですか?
坪山:僕たちはレジデンスに参加して本当に良かったですね〜!
小百合:本当に良かったです。実は4年前からネットでいろんなレジデンスの募集は見ていたんですけど、文字だけだとどんなレジデンスなのかがいまいち分からなくて。悩んでいるうちに募集が終わることもよくありました。
中村:文字だけ見てもわからないですよね。私が今まで行ったレジデンスも、たまたま人から情報を得たとか紹介されて行ったという感じです。レジデンスに行くと情報が集まりやすくなりますよね。だんだん次につながる。
シムラ:うんうん。展示も人づてで決まることが多いですよね。いく先々で、あそこで展示したい、あのレジデンスに行きたいって言ってたら誰かに伝わって。
小百合:ちゃんと言葉にすることも大切ですね。中村さんは、このレジデンスの後もまた京都のレジデンスに行かれるんですよね。
中村:そうなんです。来年から京都に行くんです。
小百合:良いですねー。レジデンスは制作中心の生活ができるのが幸せ、、と言っても色々制作のアイディアが出てくるので、3ヶ月じゃ足りないくらいでした。
中村:エクステンド(延長)しませんか〜。
一同:あははは(笑)
坪山:今後参加したいレジデンスとか何かありますか?
中村:チャンスがあるレジデンスに行きたいですよね。あと、なるべく時間とか余裕があるんだったら、どんどん動いた方が良いと思うんです。結局行動を起こした先に何があるかっていつも分からないから、だからこそ面白いのかなって。
坪山:確かに、本当にそうですよね。今日は皆さんの制作や作品などのお話を聞けて良かったです。ありがとうございました!
一同:ありがとうございました!