上海・朱家角にあるアーティスト・イン・レジデンス「タイガーハウス」では、2〜4人のアーティストが滞在しながら作品の制作に励んでいます。
先日、レジデンスに参加しているアーティスト4人で「今回のレジデンスと、それぞれの新作について」をテーマに座談会を行いました。
この記事では、その様子をお届けいたします!
タイガーハウス : 上海にあるShun Art Gallery が運営するアーティスト・イン・レジデンス。今回の参加アーティストは、3ヶ月間アトリエ兼住居に滞在しながら制作を行う。
宮城県生まれ。2010年東京藝術大学大学院修士課程修了。独自の空間概念を軸に、色面による新たな表現を模索している。また、ポートレイトや眼の虹彩といったシンボリックなモチーフを通して、人が何かを識別するということへの疑いや問いかけをテーマに作品を制作する。
坪山 小百合
福岡県生まれ。2010年に東京藝術大学大学院を修了後、福岡に拠点を移し、絵画作品の制作と発表を続けている。植物と人をモチーフに、生物の普遍的な要素である美しさや本能を描く。
東京都生まれ。2013年、武蔵野美術大学油絵学科版画専攻卒業。
手描きをメインに、繊細かつ力強い画面づくりを目指し、アーティストのミュージックビデオやアートワーク、テレビ番組のアニメーション、装丁のイラストなどを手がける。映像作家100人 2015(BNN出版)に掲載。
静岡県生まれ。武蔵野美術大学造形学部空間演出デザイン学科ファッションデザイン専攻卒業。卒業後東京にて3DCG制作者として数年間働き、その後本格的にアーティスト活動を始める。東京、上海、ヨーロッパ、アメリカ各都市などさまざまな都市での展示を通して活動の場を世界に広げつつある。
レジデンスの特徴について
坪山斉(以下:坪山):タイガーハウスのある朱家角は、とてものどかな場所ですよね。
坪山小百合(以下:小百合):上海市内からは高速バスで1時間とけっこうな郊外だから、都会な雰囲気とは違って自然も多いし人々も優しい感じがします。
中村綾花(以下:中村):環境はとにかくのどかでいいですよね。
シムラヒデミ(以下:シムラ):朱家角はご飯が美味しいですね。
一同:美味しい!!
中村:基本的にレジデンスって制作が始まると、作るか食べるか寝るかのサイクルになるから、ご飯が美味しいってかなり重要ですよね。
小百合:大事ですね〜。
坪山:あとは、このレジデンスの特徴をあげるなら、すごく自由なところだと思います。レジデンスによっては、何かプログラムがあるようなところもあるけど、ここは自由に制作ができる。
中村:そうですね。ある意味、自由に制作できるレジデンスは、ただ作品だけ制作して帰ることもできるんですが、せっかく来たのなら何か残してとか、何か繋がりを持って終わりたいですよね。なるべく作品を見てもらえるようにとか。
小百合:確かに、ここは自由だからこそ自分で計画を立てて制作をしないといけないですね。
レジデンスに来た目的
坪山:皆さんは今回このレジデンスに参加するにあたって、何か目的のようなものはありましたか?僕達は上海のアート市場の調査や視察、そして次に繋がるような展示など、何かきっかけを求めて来ていました。
小百合:それとやっぱり何と言っても、制作に集中できる環境があることがレジデンスの魅力ですよね。中村さんは何か目的はありましたか?
中村:私はもともと旅人になりたかったんですけど、、
一同:旅人!?
中村:一箇所にとどまってというよりは、色々と転々としながら作っていきたいっていうのがベースにあるので、レジデンスのスタイルが合っていると。だから、目的があってその国に行くというよりは、行ってから何ができるかとか、何が見えるかというところをメインにしています。
小百合:なるほど〜面白いですね。
坪山:シムラさんは何か目的はありましたか?
シムラ:私は、毎回目的は違うんですけど、今回はインスタレーションが作りたくて来ました。今回作りたい作品の材料が上海の壊された家なんです。それで、やっぱり現地で材料を拾わないといけないから、上海にいる時じゃないと作れない。それは元々平面作品なんですけど、今回インスタレーションに発展させたいっていうのがあって、それで来た感じです。
坪山:自分の作品の発展のためにという感じですね。
シムラ:そうですね。普段作品が小さいからインスタレーションをやりたくて。元々インスタレーションが好きで、大きな作品が好きなだけなんですけど。そんな感じで毎回レジデンスに行く理由は違いますね。
坪山 斉
坪山 斉 《Complex Code #2》2019 アクリル絵具、キャンバス
シムラ:坪山さんの今回のレジデンスでの作品はこれまでとちょっと違って見えます。
中村:今まで目や人物というイメージだったのが、今回グラフィックというか、ちょっと抽象的と言えばいいんでしょうか?
シムラ:シンプルになったというか。中国って結構カオスですよね。それがどうして逆にシンプルになったんですか?
坪山:そうですね、これまでは人物とか目とか、その人を象徴するようなシンボリックなモチーフを描いていたのですが、次第にその人の個人情報を含んだ虹彩をクローズアップするようになったんです。そして今回描いた新作は、虹彩をスキャンするイメージを作品化したものなんです。
中村:なるほど。イメージ図、ですね。
小百合:頭の中で考えてイメージを出したものだから、よりシンプルになったのかも。
坪山:そうかもしれない。
中村:なるほど〜。
坪山:中国では、wechat payを使い続ければ、その人が一日どういう行動をしていたかっていうことも筒抜けになるし、顔認証もものすごいじゃないですか。街を歩いていても、横断歩道に電光掲示板みたいなものに、、
シムラ:カメラついてますよね。
中村:あれ、赤信号無視した人が晒されるんですよね。
坪山:そうそう。まあよく言われる監視社会とか管理社会が全体主義に繋がっていくのかいかないのかっていうところや、中国が推し進めている政策のなかでのテクノロジーに今回は着目して『スキャンする』イメージを描きました。
中村:坪山さんの作品はモチーフが変わっても、根源的なことは変わらないですよね。だから、モチーフがどうのこうのっていうよりは、テーマが続いてるのかなって思いました。
坪山:そうですね。
中村:そもそも色の組み合わせ方とかフラットな塗りで仕上げる技術もすごく高いから、モチーフっていうものが消えて、ただ単に見て、あっ!気持ちいいなって思いました。
坪山:ありがとうございます!
坪山 小百合
坪山 小百合 《草虫図》2019 アクリル絵具、網、木
小百合:私は、今回のレジデンスで網を使った作品を作りました。実は、最初は油絵を描いていたんですが、外をうろうろ歩いているうちに、朱家角の網戸や窓がすごく気になってきて、網戸の作品の制作をすることにしたんです。
中村:そうだったんですね。
小百合:中国って、ちょっとした窓とかの装飾がすごくオシャレじゃないですか?
シムラ:うんうん。
小百合:とりあえず網を朱家角で買って、一枚制作してみたら、面白くなってきて。そしたら、「日常に溢れたなんてことない網戸に対して、昔からある貴重なものや絵画を引用して描くことで、また別の意味が生まれるんじゃないか?」とアドバイスをもらったんです。
中村:へえーなるほど。
坪山 小百合 《春蝶図、部分》2019 アクリル絵具、網、木
小百合:絵画というものをどうしていくか、ということは常に考えているので、これで何か面白いことができるかもしれないと思いました。
シムラ:この網の作品は今は1枚の網だけでできてるけど、もう1層重ねて透けて見えてもいいかもしれないですよね。
小百合:私もまさに、もう1層網を重ねてみようと思っていました。後ろにもう1枚違う絵が透けて見えると面白いかなと。あと、この作品は見せ方が大事だと思うので展示方法は考えないといけないと思っています。
中村:この網の作品は物質としてあるからそれをどう見せるか。
坪山:立体にもなりうるしね。
中村:そうそうそう。
小百合:最初朱家角に来た時、まさか現地で何かを買って作品を作るとは思ってもみなかったんですけど。レジデンスを運営しているオーナーさんに「雑貨屋が面白いから入ってみたら?」と言われて行ってみました。
中村:出会いと出会いが合って、素材を見つけたって感じですね。
小百合:そうですね。市内から離れている朱家角の環境のおかげで、あるものでなんとかしようとしたのは良かったかもしれません。日本だと、なんでも不自由なく手に入るから、レジデンスに来ないと作れなかった作品だと思います。
上海アーティスト・イン・レジデンス レポート~アーティスト4人による座談会~(その2)に続きます。
近日中にUP予定。乞うご期待。