都築まゆ美は武蔵野美術大学造形学部(インテリアデザイン専攻)を卒業後、装画やイラストレーション、ハンドメイドプロダクトの制作など分野横断的に活躍を続けているアーティスト。作家は自身を代表するリソグラフの作品に加えて、最近は油絵を中心に筆での制作をスタートさせています。日々新しい挑戦を続ける都築さんに、改めてお話を伺いました。
都築まゆ美 Mayumi Tsuzuki |
_都築さんはこれまで主にリソグラフで制作をされているイメージがありましたが、最近は油絵の制作も精力的に続けていらっしゃいますね。リソグラフと並行して油絵の制作を始められた契機や経緯をお伺いさせてください。
油彩を始めたのには3つの理由があります。リソグラフはサイズに制限があり、より大きな作品が描きたかったということ、ユニーク(1点もの)を期待される機会が過去に何度もあったこと、そして「Oil on canvas」への憧れです。
もともと筆で描くことに苦手意識があり、鉛筆デッサンが得意だったことから鉛筆のグラデーションで版を作るリソグラフでの表現に辿り着いたのですが、これを機に改めて筆にチャレンジしてみようと思いました。
左から《毛皮》(リソグラフ)、《Neighborhood》(油絵)
_昨年(2023年)はアクリル絵の具でも作品を制作されていたかと存じます。都築さんにとって、同じ絵の具でもアクリルと油で表現の違いはどのように感じられているでしょうか。現在主に油絵の具を使用している理由などはございますか?
筆で描いてみようとして馴染みのあるアクリル絵の具から始めてみました。思ったよりスムースに描けたのですが、乾く速度と質感が描きたいものとは合わない気がして、すぐに油彩に移行しました。リソグラフの時に色を何色も重ねて出していくという感覚が、油画を描く際の何層も重ねて塗っていく技法に合うのではないかと思ったからです。
左から《Flowers with vase》(アクリル画)、《Neighborhood》(油絵)
_以前少しお話を伺った際に「絵の具で描く際もまず画面に三原色を引いている」とお聞きしましたが、油絵の具で描かれる際の手順を改めて教えてください。
キャンバスにジェッソで下地を塗った後、全体に黄色を塗ります。モチーフの稜線を鉛筆で描き、影となる部分を赤と青の絵の具で描きながら全体の明暗を把握していきます。その後に、最終的に載せたい色の補色を塗るなどして色を重ねていきます。
油絵の制作過程(左→右の順)。最初に塗られた黄・赤・青が最終的なイメージの縁から滲み出し、作家独自の印象を創り出していることが分かる。
_リソグラフと油絵の具で描く際の差異などはありますか?双方で気を付けているポイントが異なる、もしくは共通しているなどがあれば是非教えてください。
リソグラフと油絵は画材も支持体も途中経過も全く異なりますが、共通点はどちらも私にとって「心震える」質感の表現ができるところです。リソグラフの微妙な色のズレの部分、油彩の筆跡から覗く緻密な色の重なり…。口頭で言い得るのは難しいのですが。
_以前のインタビューで、「リソグラフは刷った後にイメージ通りではなかった場合、鉛筆画から描き直すことがある」と苦労を語られていました。油絵具は上から色を重ねられる点でまた少し異なるのかと思うのですが、いかがでしょうか。油絵特有の苦慮する点などがあれば教えてください。
そうですね、そういった意味では油彩は扱いやすいかと思います。途中で「違うな」と思ったところがあっても、そのまま筆を進めて納得がいくように仕上げることができますから。
どのような質感で仕上げたいのかに少しでも迷いがあると、どこで筆を止めるかを見失ってしまうのかなとは思います。油彩は敷居が高いかと思っていましたが、逆に扱い易いけれど奥がものすごく深い画材なのだということがわかりました。
・【参考】アーティストインタビュー 都築まゆ美|鉛筆画から生まれたデジタル版画表現
_リソグラフの落ち着いたシックな発色と、油絵の具の明るくて鮮やかな発色の違いがそれぞれ楽しめるのが都築さんの作品の魅力の一つだと感じています。ご自身ではその点についてはどのように考えられていらっしゃいますか?それぞれの技法の魅力をお聞かせください。
「画材が違っても印象や世界観は変わらない」というご感想を多くいただいています。トータルに描きたいものは同じですが、油絵の方はより実在感があり、リソグラフは繊細で儚い感じになるのかと思います。描き分けているわけではありませんが、描きたいものを表現するのにどちらが相応しいのかは考えています。
先日FEELSEEN GINZA(東銀座)で開催された個展「In bloom」にて。油絵とリソグラフの作品が織りなす展示の様子。
_今後更に表現の幅を広げられて行かれるのだろうと楽しみに拝見しています。注目してほしい点など、都築さんから鑑賞者の方々へ何か伝えられたいことはございますか?
有難いことに展示の機会をたくさんいただき、ほぼ毎日描いています。そして喜ばしいことに描きたいものが次々と湧いてきて筆が追いつきません。でも何故か追い込まれるほどに、一点一点の作品にこだわりを持ち、私にとっての「心震える」ポイントには特に時間をかけてしまいます。それは、先述の色の質感であったり、あるいは隠れたモチーフであったり、様々です。
作品をご覧いただく際に、テーマやコンセプトに共感したり鮮やかな色彩を楽しんでいただきたいのはもちろんですが、ほんの些細な部分に、観る人にとっての「心震える」ポイントを見つけていただけると幸いです。
_都築さんは4月開催の「tagboat Art Fair 2024」に出展予定です。是非会場でリソグラフと油絵のそれぞれの奥深さをご体感ください。
「tagboat Art Fair 2024」(特設ウェブサイトはこちら)
◎会期
2024年4月26日(金)16:00~20:00 ※26日はご招待のお客様のみご入場いただけます
2024年4月27日(土)11:00~19:00
2024年4月28日(日)11:00~17:00
◎会場
〒105-7501
東京都港区海岸1-7-1 東京ポートシティ竹芝
東京都立産業貿易センター 浜松町館 2F,3F(JR浜松町駅より徒歩5分)
都築まゆ美 Mayumi Tsuzuki |
1966年 東京都生まれ
1988年 武蔵野美術大学造形学部工芸工業デザイン学科卒
イラストレーターとして数多くの書籍の装画を手掛けるとともに、近年は油彩やリソグラフなどのアート作品を主に制作。また、布による動物の壁掛けオブジェ「Fabric trophy」の制作など、幅広く活動中。
作家は「全ての物事は相反する2つの側面を持ち、私たちは常にその両面の間をバランスをとりながら綱渡りのように生きている」と考え、そのような日々の小さな緊張感を、明るい色彩とありふれたモチーフとは裏腹などこか奇妙で不穏な情景によって表現している。
【主な出展歴】
ONE ART TAIPEI 2023 2024 / 台湾
tugboat ART SHOW / 大丸東京
WAVE 2023-24 / Lurf MUSEUM
LUMINE ART FAIR / ニュウマン新宿
tagboat ART FAIR / 銀座三越
WAVE2019 , 2020 , 2021, 2022 / 3331アーツ千代田SCOPE ART SHOW /バーゼル・マイアミAffordable Art Fair/ニューヨーク・シンガポール・ロンドン
他個展、グループ展多数