ギャラリーがアーティストをプロデュースする方法は時代を追って変化している。
昨今のプチ・アートバブルが収束の方向にある中で、我々がアーティストの持つ正しい価値をきちんと示していくことがますます重要になってきている。
物価上昇が続く一方で社会保険料の負担が増していく世の中において、ぜいたく品の一つであるアートのうち価格変動が激しいものは購入者から避けられることになるだろう。
オークションで異常値まで上がってしまったアート作品が暴落する時代では、ギャラリーが今後どのようにアーティストをプロデュースするかが非常に重要な課題となってきている。
オークションで高騰している作家を取り扱ってるギャラリーを信じて盲目的に買っていたコレクターは、ここ数年で大きな痛手を負うかもしれない。
ギャラリーによるアーティスト・プロデュースのやり方は新しい局面を迎えているのだ。
大衆に広く知られること
ギャラリーがオークションの落札額に惑わされることなく、作品の販売価格を着実に上げていくために重要なことは、その作家を大衆に広く知ってもらうことにある。
一部の富裕層の競争によって暴騰した価格をその後も支える一定のファンがいなければ、その後はオークションでの下落が止まらず、ギャラリーの販売価格よりオークション落札額が下回ったり不落札になったりするだろう。
つまり、購入した顧客に損をさせてしまうことになりかねないのだ。
これは、購入顧客が少ないにも関わらず価格を上げてしまうオークションとの連動手法に限界が来ているということを示している。
これからの時代は、オークション価格に翻弄する少数の富裕層ではなく、購入を希望するファンの数を拡大することが重要であり、そのためにまずは作家のことを多くの人に知ってもらう戦略が必須となってくる。
新たな市場を獲得する方法としての大衆化であるが、実はそれが出来ているギャラリーは少なく、国内市場が脆弱な中での小さな競争はここ数年でさらに厳しくなっていくだろう。
より大衆への認知を広げるためには、アート市場より巨大な音楽市場で普通にされている手法を取り入れることも考えなければならない。
音楽業界ではテレビなどのマスメディアを活用することが最も効果的であった時代から、この数年で様相が大きく変わってききている。
テレビのコンテンツが面白味のないものになっている現状では、自宅に長くいる高齢者が主な視聴者になっており、若い層のテレビ離れが顕著となってきている。
今では、テレビで放送された内容をネットニュースで知り、面白そうなものに絞って後からYoutubeなどで確認をするようになっているのだ。
音楽業界も利用するメディアはテレビ中心ではなくなり、今や完全にソーシャルメディア(SNS)が中心になっている。
ソーシャルメディア(SNS)が生命線
ソーシャルメディア(SNS)は今やアーティストのプロデュースに利用するのは当たり前であり、これからはそれをどう使うかによって作家の運命が変わる。
X(Twitter)、Instagram、TikTokなどその特徴によって利用者層と使い方が違うのだが、一言でいうと全部使いこなすことが求められるだろう。
何がどのように当たるかが予想だにできない今の時代では、「できるだけ多く打席に立つこと」が重要なのだ。
経験を重ねることによって、その結果をもとに次の打席でどうすべきかを学習するのだ。
アーティストやギャラリーは事前に色々と考えるより先に、まずはソーシャルメディアにどんどん出稿すべきなのだ。
躊躇していることは停滞ではなく、後退を意味することとなるだろう。
アーティストというのは作るだけで、それを外部に伝えるのは自分ではなくギャラリーがやることだと思っているとすれば、その考えはすでに時代遅れなのだ。
これまで通り、ギャラリーが雑誌、ニュースサイトなどマスメディアを使って告知したり論評するだけでは、顧客にとって数多あるアート作品の中から意中の作品を見つけることが難しくなっている。
アーティストが積極的に自らソーシャルメディアを利用しなくてはならない。
例えば、奈良美智のX(旧Twitter)は32.1万人であるし、村上隆も32.5万人といいうフォロワー数であり、大御所だからといってギャラリー任せにしているわけではない。
ソーシャルメディアを通して、自分の考え方、作品、行動を伝えることがブランディングに繋がっているのだ。
もちろん、タグボートのアーティストのプロデュースについてもソーシャルメディアを活用したマーケティングへと軸足を大きく変えていく。
特に個別のアーティスト毎のソーシャルメディアの活性化を図ることをギャラリー自らが主導する時代なのだ。
その中では、作る作品、展示、活動などをストーリー性を持って見せることが重要になってくる。
アーティストと個別に相談しながら、ソーシャルメディアを通じたプロデュース方法を決めていくのがギャラリーの仕事となり、その中で作家の世界観を大衆に伝えていかなければならないのである。
さて、タグボート主宰の「ART FAIR GINZA」が銀座三越で9月2日から開催される。
ART FAIR GINZAではタグボートの50名の取り扱いアーティストによる約600点の作品が銀座三越の催事場全てを使って展示される。もちろんすべての作品がオンラインで販売される。
是非、こちらも期待して頂きたい。
公式サイト「ART FAIR GINZA」
タグボート代表の徳光健治による二冊目の著書「現代アート投資の教科書」を販売中。Amazonでの購入はこちら