タグボートが取り扱いをしているアーティストの数は150名を超えている。
彼らによって年間3,000点を超える作品が制作されるのだが、そのほとんどをリアルの場所で展示している。
3,000点をすべて展示しようとすれば、通常のギャラリースペースで個展・グループ展をする程度ではまったく歯が立たないのである。
従って、タグボート独自のアートフェア、百貨店との共同でのアートフェア等を年に3回ほど開催することで、取り扱いをしているアーティストの表現と世界観を世の中に見てもらおうとしているのだ。
アートフェア形式の場合は会期が3日~10日ほどと短いので、フェアの終了後も引き続きオンラインで販売している。
こういう方法でなければ、取り扱いアーティストの作品を年間数千点も販売するのは難しいのが現状である。
一方で海外のメガギャラリーはいうと、個別にアーティストをプロデュースするマネジメントが出来上がっており、それはほぼ国内の芸能プロダクションと似た仕組みの上で成り立っている。
アート市場の違い
日本と欧米のアート市場の規模はかなり違うので、それぞれで戦い方が違う。
例えば、世界最大級のガゴシアンやデビッド・ツィルナー、PACE、ハウザー&ワースでは、それぞれ世界中に支店を持ち、100名を超える専属アーティストの展覧会を各地で行っているほか、様々なアートフェアに潤沢な資金で出展している。
1社で日本のアート市場と大差ない売上を持つのが上記のメガギャラリーなので、やり方が桁違いだ。
たとえば、国内の音楽業界というのは、ライブ、CD、配信売上などで一定の大きな市場があるのだが、それに欧米のアート市場は規模的には近いと思ってよいだろう。
それほどの規模まで欧米のアート市場は拡大しているので、専属アーティストを100名規模でプロデュース出来るメガギャラリーが存在するのだ。
また、海外は所属アーティストが別のギャラリーに移籍することが頻繁に発生しており、その都度移籍金が払われる仕組みとなっている。
分かりやすく言うと、メジャーリーガーが球団間で移籍するのと同じようなことがアート界にもおきているのだ。
例えば、数年前に草間彌生が業界トップのガゴシアンから業界2位のデビッド・ツィルナーへと所属ギャラリーが変わるようなことが普通におきるのだ。
日本のプロデュースは囲い込み型と育成型
市場規模が違うので、欧米のアーティストのプロデュースをそのまま日本に導入するのは難しいだろう。
アーティストの作品販売を地域別に独占する「専属」という概念は欧米では普通であるが、日本の場合は販売チャネルが少なくなるだけなのであまりオススメできるものではない。
国内の1社のギャラリーが持つ顧客だけではアーティストの作品を十分に売れないため、作家からみると独占(専属)契約は不利になることが多いのだ。
そのため、多くのアーティストは独占契約をせずに複数のギャラリー経由で販売することが可能なのだが、一方でなぜか1つのギャラリーに販売を依存しているアーティストは多い。
帰属意識が強いのか、ギャラリーへの依存度が高いのか分からないのだが、ギャラリーと特に契約書を交わすことなく独占的に販売してもらっているようだ。
主人に忠義を尽くす「御恩と奉公」のように、アーティストを発掘したギャラリーに対して忠義を尽くすことが普通に行われているのが現状である。
いわゆる、契約不要の「囲い込み」である。
その状況はギャラリーにとってはメリットが大きく、アーティストの「育成」が非常にやりやすい土壌にあると言えよう。
これは芸能プロダクションに置き換えてみても同じことが起こっている。
吉本興業、ジャニーズ事務所、AKBグループなどの大手では、マネジメント会社がタレントを若いころから終身雇用のように育成していくのが当たり前のように行われている。
おそらくこの方式が国内の大手企業と社員の雇用関係と同じように、日本には馴染みやすいのだろう。
しかしながら、そのような育成制度、徒弟制度は少しずつお笑いや音楽の業界でも崩れ始めている。
アート業界においても、囲い込み型と育成型の仕組みをこれまでと同じように今後も維持することは難しくなっていくだろう。
さて、タグボート主催の「ART FAIR GINZA」が銀座三越で9月2日から始まる。
ART FAIR GINZAではタグボートの50名の取り扱いアーティストによる作品が銀座三越の催事場全てを使って展示される。
タグボートは専属制度はとっていないのであるが、このように取り扱いアーティストになるべく多くの展示の機会を提供することでマネジメントをしているのだ。詳しくは次週のコラムで説明しよう。
是非、こちらも期待して頂きたい。
公式サイト「ART FAIR GINZA」
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