8月5日、6日にIndependent Tokyo 2023が開催された。
結果として、過去最大の来場者数を記録し、多くのアートファンが集まったイベントとなった。
一般の方が初めてアートを知り、アートをエンタメとして楽しむ機会を提供できたことに少しは貢献できたのではないかと思う。
また、未知のアーティストの才能を世の中に紹介していくという面でも、アート業界の下支えになれたのではと自負している。
とは言うものの、国内のアート市場を形成するには時間がかかる。
特に、アートの購入に対して興味を持っている人が少ない日本では、一朝一夕で成り立つものではない。
個々のギャラリーが自社のアーティストを販売するだけではアート市場全体の押し上げにはなかなか繋がらないのが現状だ。
アーティスト、ギャラリー、コレクター、批評家、オークションハウス、美術館といった美術関係者が有機的につながることが重要でなのである。
またそれだけでなく、先進国で最弱である日本のアート市場のすそ野を広げるには、アートの垣根を外さなければならない。
イラスト、デザインとのアートとの垣根については、すでに無いものだと理解したほうがよい。
それだけでなく、ファッション、音楽、その他エンタメの巨大市場とどれだけ一緒に仕事ができるかがアート業界の発展に必要であるし、これからの正念場だ。
アートが多くの人の目に触れることが最も重要で、アートは他とは違う特別なものといった観念を完全にとっぱらわないと将来はない。
それくらい、日本と他国とのアート市場の差は大きいからこそ、その穴埋めが必要なのだ。
それを勘案しながら、我々はこれからのIndependent Tokyoの在り方を考えていくことが求められるだろう。
個別のコミュニケーションが強くなる
さて、今回のIndependent Tokyoにおいては、新たな気付きが多かった。
まず、人の動きを制するのは、マスに向けた広告ではなく、個別のコミュニケーションと口コミが大勢を占めるという時代になったということを気付かされた。
確かに以前からこの傾向が強くなっていたが、今回のIndependent Tokyoで決定的になったと言えよう。
広告の役割は単なる情報提供でなく、消費者との関係構築やエンゲージメントの促進にシフトしていっていることは間違いない。
タグボートのこれまでの購入顧客や、出展作家の知り合いなど、関係性がすでにある人からSNSなどの口コミで多くの来場があったことがイベントとしての成功につながったのだ。
また、アートイベントでは、単純に作品を展示して見せるだけの方式は次第に影をひそめることになるだろう。
これからは、来場者と展示作家とのコミュニケーションがイベントの質を決めることになる。
来場顧客が作品を鑑賞するだけでは、美術館で有名な作家を見せる展覧会と何ら変わらない。
我々がやるべきことは、出展者、来場者のそれぞれが満足するコミュニケーションの方法を構築することにあるのだ。
今回は、展示作家には来場者とのコミュニケーション方法について事前にアドバイスを行った。
作品について簡略に20秒で説明すること、使う言葉は小学6年生が理解できる内容であること、の2点だ。
来場者にとって、鑑賞しているときに簡単な説明があったほうが作品のコンセプトを理解しやすい。
一方で、出展者から冗長な説明をされたら困惑するし、さっさと次を見たい来場者にとってストレスになるだろう。
そういったことを避けるために、参加するアーティストに対し、説明は端的に250文字でまとめておくことをお願いしたのだ。
もちろん、来場者と出展者がブースの中で新しいコミュニケーションが生まれることもあるし、そこで終わることもある。
ただ、何もコミュニケーションしないことのリスクの方が大きいと我々は思っている。
展示をしたから、後は勝手に感じてくれ、というのは育児放棄のようなもので、せっかく作った作品を世に出すのであれば、その後に何もしないのはすでに古(いにしえ)のやり方なのだ。
以上のように、作家にとって必要となるのはコミュニケーションの力であることは言うまでもない。
口頭で話すだけでなく、SNSなどで自身を発信することも含めて外部とのコミュニケーションを作家個人が直接行うことは今や必須となっている。
作品を作って展示するだけで終わるアーティストに未来はないだろう。
さて、今回の展示では、イラスト系のアーティストが多数出展されていたが、彼らの作品のクオリティは平均的に非常に高くなっていることを感じた。
また、イラストはクライアントと話をしながら、彼らのニーズに合わせたものを作っていく必要があるので、コミュニケーション力はファインアートの作家よりも強いことを感じた。
今後はイラスト系アートがさらに増えていくだろうし、iPadなどのデジタル機器を活用したアート制作も増えていくことは間違いない。
このように、Independent Tokyoも名前は変わりながらも今年で15年目を迎え、その中で出展者の世代交代を含めて様々な変化があった。
高齢者にとって人気の写実画は消滅する運命にある中で、日本に芽吹いている新しい表現を世の中に見せていくという義務と責任を我々は感じている。
流行っている作品を売るのではなく、将来性のある才能に投資をする土壌を作ることこそが、Independent Tokyoには重要なのだ。
さて、Independent Tokyoが終わると、次は銀座三越で開催される「ART FAIR GINZA」が9月2日から始まる。
こちらのフェアではIndependent Tokyoでスカウトしたアーティストの展示が多数含まれている。
そういった意味では、タグボートのイベントは相互にリンクしているのであり、取り扱いアーティストが知り合いにIndependent Tokyoの参加を勧めることもあり、ある意味で循環しているとも言える。
ART FAIR GINZAではタグボートの50名の取り扱いアーティストによる作品が銀座三越の催事場全てを使って展示される。
是非、こちらも期待して頂きたい。
公式サイト「ART FAIR GINZA」
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