エンターテインメントとしてアートを楽しむ
エンターテインメントとしてアートを楽しむ今の日本人にとって欠けている意識として、「アートは見るものであって買うものではない」であったり、「アートは投資にならない」ということがあり、これらは国内アート市場から見た問題点のひとつである。
上記のようなアートの購入に関する問題提議はこちらのコラムでも散々やってきたのだが、一方、アートを購入するのに必要な行動である「鑑賞」という部分で言えば、アートをエンタメとして楽しむことがあまりにも日本では少なすぎると感じる。
アニメや漫画は完全にエンタメとして自立した市場になっているのに、それがアートとなった途端に難しく考えすぎるのが日本人の特性なのかもしれない。
日本の小中学校の美術教育の問題であると思われるが、アートを楽しむのではなくて、美術作品の歴史や背景を勉強することがメインであったり、図画工作についてはうまいかどうかの技術が評価対象となっていたので、絵心がないと思っている子供からは授業は苦痛でしかなかっただろう。
同じ芸術であっても、音楽は完全にエンタメとして自立した市場であり、事前に勉強する必要なく、それだけで楽しむことが当たり前となっている。
我々が音楽を「聞き流す」ように、アート鑑賞も「見流す」ことで何も問題はない。
ぱっと見て理解できない作品はそのままでも構わないし、予習しておく必要なんてまるでない。
クラシックの音楽史を知らずにロックを聞いているように、美術史を知らずに現代アートを楽しめばよいのだ。
同じ芸術なのに、音楽ではエンタメ市場が成り立ち、アートではその市場が形成しにくいのは、今の日本のアートが西洋社会から来ているからであろう。
音楽とアートでは文化の土壌が違う
日本では、雅楽や能楽などの伝統的な音楽や演劇が数世紀にわたって確立されてきたが、これらの伝統は日本の文化に根付いており、国民的なイベントや儀式などで重要な役割を果たしてきた。
一方、西洋に由来する絵画や彫刻などのアートは、日本では明治時代以降に導入されたものであり、伝統的な日本美術とは違う形で発展することとなった。
日本はサブカルチャーが非常に強い国であり、音楽分野でもアニメソング、J-POP、アイドルなどの市場が人気であり、そのような要素が音楽をエンターテインメントとして確立させる一因となっている。
一方、アートの世界では、村上隆のようなポップアートを除いて、サブカルチャーの影響があまり見られず、より伝統的なアートがまだ主流として残されているのもエンタメとして発展しにくい要因だろう。
しかしながら、若いアーティストの台頭で、アニメや漫画、ゲームから直接影響を受けたアートが少しずつであるが、デジタル作品を中心に盛り上がり始めている。
単なる流行りで終わらせずに、エンタメにまで昇華させることができれば文化として定着する可能性はあるのだ。
米国のストリートアートが、スプレー、ステンシルを使った地下鉄や壁の落書き、スケボーファッションなどから発展していることから、日本も独自のサブカルからアートが発展することも十分ありえるのだ。
アートのパトロンという楽しみ方
アーティストを応援して楽しむということもエンターテインメントのひとつだ。
将来的な資産価値を期待して応援の意味で購入するというのもあるが、ここでいう応援とは、見返りを求めない気持ちや行動で、無償の愛のようなパトロン行為だ。
例えば、同世代の作家を自分自身の成長とともに応援するというのもあるだろうし、金銭的な支援以外にアーティストに様々な経験をさせたり、重要人物を紹介したりというのもあるだろう。
見返りのないパトロン行為は西洋の文化であるノブレス・オブリージュ(noblesse oblige)が基本となっており、それを我々は理解しないといけない。
ノブレス・オブリージュとは、貴族や上流階級などの地位を持つ者が相応の社会的責任や義務を負うという道徳観のことであり欧米で浸透している考え方だ。
様々な特権を行使できる身分の代わりに、お金を出したり、寄付をしたり、パトロンになったりするのだ。
特権は、それを持たない人々への奉仕によって釣り合いが保たれるという考え方であり、他人のために行動できること、社会的模範としてふるまうことが、社会的地位のある人に求められている。
ノブレスオブリュージュとしてのアートのパトロンは、最近は一部の富裕層や慈善活動家だけに限られたものではなくなってきている。
一般の人々でも、地域のアーティストや文化活動を支援することで、小さなスケールでノブレスオブリュージュの精神を体現することができるのだ。
ヘンテコなものを探す面白さ
見たことがないものには興味が持てない「前例主義」みたいなタイプの人は新しいアートには向いていないだろう。
そういう人は、写実の美人画などを見て”ホンモノそっくり”と言って楽しんでもらえればそれでよいと思っている。
保守的ではあるが、それもアートの楽しみ方のひとつでもある。
一方、現代アートは伝統的な美術の枠組みを逸脱し、挑発的で予測不可能な表現を探求するものだ。
その中で出てくる「ヘンテコなもの」を探す面白さは、多岐にわたっていく。
以下、いくつかの側面を挙げてみましょう。
現代アートは、往々にして抽象的で色んな意味が含まれるため、鑑賞者それぞれが自分なりの解釈を楽しむことができる。ヘンテコで奇抜なものはその解釈を更に豊かにするだろう。
また、通常とは異なる奇妙な見た目に対する反応は、新しい感覚的な体験を生み出すことがある。それは、人間の感覚に対する新しい理解や、美に対する異なる認識へとつながっていくのだ。
既存の枠組みから外れた表現を通して、アートの可能性がどこまで広がっているのかを探求することは、創造性に対する新しい理解をもたらすことでもある。予期せぬ驚きや発見の喜びは、アート鑑賞の楽しさの一部とも言えるだろう。
総合すると、現代アートの中のヘンテコな要素を探ることは、感覚的な刺激から社会的洞察、個人的な発見に至るまで、多岐にわたる面白さと深みを提供している。それは、アートが持つ魅力の一端であり、鑑賞者自身の創造性や思考を刺激する重要な要素ともなっているのだ。
さて、このようなアートを楽しむイベントとして、手前味噌ではあるが、タグボートが主催するIndepedent Tokyoが存在する。
今週末にぜひ足を運んでいただき、アートをエンターテインメントとして楽しめる機会をつかんで頂きたいと思っている。
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【日程】
2023/8/5(土)11:00~19:00
2023/8/6(日)11:00~18:00
【会場】
東京ポートシティ竹芝 3F 東京都立産業貿易センター浜松町館
(浜松町駅)
『Independent ご招待券お申込み受付中 』
2日間の入場(通常¥1,000)が無料になるご招待券のお申込みを受付けております。
この機会に下記フォームより是非お申込みくださいませ。
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