Independent Tokyo というタグボートが主催しているアーティストを中心としたアートイベントが今年も開催される。
そこでは毎年200名近くのアーティストがブース出展して、作品の展示販売を行っている。
このアートイベントはコンペティション(公募展)の意味もあるので、約25名の審査員が集まってスカウト合戦を行うのだ。
今年で15回目となるこのイベントは、当初は村上隆が主催する「GEISAI」を真似たものから小さくスタートしたのだが、毎年継続して開催することで、現在では出展するアーティストの質と量において、GEISAIを凌駕するようになったと自負している。
そのIndependent Tokyoでグランプリを獲得するアーティストは20名を超える審査員の持ち点の合計で決められており、多数の審査員から平均的に高い点数を獲得すれば勝ちやすい仕組みとなっている。つまり、一部の熱狂よりも万遍なく高い評価を獲得できるアーティストが強いのだ。
一方、各審査員の特別賞は、グランプリ、準グランプリを除く審査員の「いち押し」のアーティストであり、選出された後に審査員の運営するギャラリーで個展、グループ展に誘われることが多いのだ。
今回紹介するフルフォード素馨(ジャスミン)は、2021年のIndependent Tokyoで見事にグランプリを受賞したアーティストの一人であり、審査員の一人として名を連ねているタグボートの徳光が「いち押し」に指名したアーティストの一人である。
2年前のIndependent Tokyoが開催された8月7、8日は、デルタ株の流行、台風、オリンピックの閉会式などが同時にあった時期であり、来場者の減少が懸念された中で予想より多い方々が来られて、アートのもつ力強さを再認識させられた時であった。
そのときにフルフォード素馨が多くの出展者を押しのけてグランプリを獲得した理由は、人をひきつける圧倒的な作品の魔力であった。
その魔力とは不思議なふわっとした雰囲気を纏っており、ユニーク且つ自由なものであった。
彼女の作品はまさに「とにかく面白いと思ったものを描く」といった表現がぴったりだろう。
夢で見たものとか、日常の風景で思わず笑ってしまいそうなものでいっぱいであり、どんどんイメージが湧いてくることが感じられる画風である。
フルフォード素馨は武蔵野美術大学の油画出身であるが、入学した理由が「面白そうな人が多い」ということであり、入学後はやりたいことが広がって、版画科に転籍している。
その後は、ロンドン芸術大学 セントラル・セント・マーチンズでファインアートの修士号を取得した。
そこで経験した自由主義と個人主義は、日本で経験したものを遥かに超えたレベルであり、それが今の彼女の作風につながっていると言えよう。
また、やりたいことは何でもやってみたい、作ってみたいという考えで作品を制作しているので、過去からの作品を並べてみると、何ら脈略がないように感じてしまうのだが、それこそが彼女の面白さであり真骨頂だ。
フルフォード素馨の作品には小難しいコンセプチュアルが一切ないというのが、逆に魅力的だし、潔ぎよい。
英国でマスターをとった経験から想像されるのは、コンセプチュアルアートに傾倒するイメージであるが、そういうことにとらわれずに、視覚的に分かりやすいものを表現している作品が好感を受ける。
見てもよく分からない、感じられない作品にあまり興味がわかないため、コンセプチュアルであってもユーモアがないと好きじゃない、という彼女の考え方が如実に作品に反映されている。
彼女の作る、夢の中のような景色や、現実から遊離した表現で伝えたいメッセージとは
「世の中は思い込みでできている」
ということだ。
我々の固定観念を疑い、変化する世の中を独特の視点から捉えている。
しかも、その中にどこか可笑しさを含んだユニークな表現があるのがフルフォード素馨の特長だ。
彼女の作品を鑑賞することによって、我々の凝り固まった頭を解きほぐしてくれる。
彼女の前では、マルセルデュシャン以降の小難しいコンセプトありきといった考え方はすでに古いのかもしれない。
コンセプトがないと現代アートではないという認識は捨てて、自身が面白いと感じるものを自由に描くことの重要性を我々に教えてくれるかのようだ。
そもそもアートとは自由な感性で描くものでであり、デュシャンから100年経った今、まずはコンセプトを考えてから制作するという固定認識からそろそろ脱出する時期であろう。
価値観念に縛られてにがんじがらめになって苦しんでいるアーティストたちが、自身のコンセプトが大衆に受け入れられずに、結局途中で作家活動をやめていく場合が多い。
自身が面白いと感じたことを自由に表現すること、これがアーティストとして長くやっていくのに重要なことなのだ。
制作そのものを楽しみながら、気が付いたら、とんでもない作品の質と量に繋がっていくのが天才の持つ力であり、そいう才能をフルフォード素馨は自然と身に付けているのだろう。
今年3月はタグボートでフルフォード素馨の個展を開催したほか、昨年は奈良美智の版画を手がける版画の名門ギャラリー「Kido Press」でも個展も開催した。
今後の活躍に大いに期待できるアーティストのひとりとしてますます目が離せない。
フルフォード素馨 Jasmine Fulford |
2023.8.5(土)11:00~19:00
2023.8.6(日)11:00~18:00
東京ポートシティ竹芝 2F
東京都立産業貿易センター浜松町館
https://www.tagboat.com/artevent/independenttokyo2023/index.php
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