アーティストはAIの時代だからこそ評価される
AIで描いた作品が公募展で受賞する時代に世の中が変わってきている。
昨年8月、コロラド州の公共イベント「ステイト・フェア」で行われた美術作品の公募展にて、AIが生成した作品が1位に輝いた。デジタルアート部門とはいえ受賞して良いのかと波乱が巻き起こったようだ。
このときのジェイソン・アレンが作った作品『Theatre D’opera Spatial』はテキストから画像を生成するAIプログラム「Midjourney」を使ったものだ。
さて、過去の歴史において写真の出現によって写実絵画のもつ価値は低くなった。
ホンモノそっくりに描くことは写真の登場でその役目を終えたのだが、さらにこれからはAIで描くことが当たり前になると「どのように描くか」はさほど重要ではなくなる。
技術を崇拝すること自体がもはや時代遅れとなっていくだろう。
現在、写真による作品もアートであると認知されているので、今後はAIアートという分野が新しい領域として進化していくことになるかもしれない。
ジェイソン・アレン作『Theatre D’opera Spatial』
さて、2023年になってからさらにAIの勢いはとまらない。
イーロン・マスクなどの投資家が集まって設立したOPEN AI社が開発した言語モデル「GPT4」は簡単なチャットを通じて様々な文章作成が可能となっている。
美術の分野では、ボリス・エルダグセンの作品「The Electrician」が、ソニーワールドフォトグラフィーアワードの写真部門で1位になったのだ。
この作品は「DALL-E 2」というアプリを使ったものだが、ボリスは自分の作品が自分で撮った写真ではないため、賞を受け取るつもりはないと述べたという。
ボリス・エルダグセンの作品「The Electrician」
AIは特定のアーティストの作風を模倣させたり、様々なビジュアル効果を組み合わせたりすることでどんどん進化していく。
〇〇っぽいとか、〇〇と✕✕を掛け合わせたといった作品はAIが瞬時に何パターンも作れてしまうのだ。
我々はAIが作り出した膨大な作品をセレクトするだけでよくなる。
技術的な分野を競うアート作品は、今後はアートとしての評価ではなく工芸としての評価にとどまる運命となるだろう。
アートにおいて技術的な競争が陳腐化する一方、これからのアートは何が望まれるだろうか。
今から100年前にマルセル・デュシャンによる「泉」という作品から始まった「コンセプト」の重視がさらに強まっていくのだろうか?
コンセプト重視というが、そもそもコンセプトはアートに対して価値を生むのだろうか。
これを言うと元も子もないのだが、コンセプト自体はどこにでもあるものだし、コンセプト自体に価値があるわけではない。
例えば、作品のコンセプトが地球環境の問題だったとする。地球環境のテーマをもって様々なアーティストが作品を作っているが、テーマ自体が新しい訳ではない。
作品を通じて世の中にどれだけ影響を与えることができるかがアートとしての価値に代わっていくだろう。
アートを通じて世界観を伝える
アートの市場ではマネーゲームの様相が深まる一方で、アートを金銭的な価値だけではなく、アートによって何を成し遂げたかが重要となってくる時代となると我々は予想する。
もちろん何も金銭的な報酬がなければ、アーティストが命を削って大作を作ることもないだろう。
例えでいうと、コロナバブルで荒稼ぎする医療従事者よりも、国境なき医師団のように、自己犠牲の上に成し遂げる仕事のほうが尊敬される世の中へアートも変わっていくと思うのだ。
アーティストとして必要なお金がきちんともらえることが条件であるが、新しい表現と作品が与えるインパクトによって世の中を変えることに力を入れる作家が増えてくるだろう。
AI時代はアーティストにとって、どのように作るかよりも、作品を通じて伝えるメッセージが重要となるのだ。
また、アーティストの世界観は多くの人に伝わるくらいインパクトが強くないと印象に残りにくい。
作品にインパクトがあるからこそ、世界観が伝えやすくなるのだ。
そう考えると、AI時代のアートとは
・人の心を動かすアート、感動させるアート
・ストーリーが内在し、そのメッセージが色濃く伝えられるアート
ということになる。
そうなると、コレクターの欲望も変わっていき、「人の心を動かす」作品とその才能を欲しくなるだろう。
近年のNFTブームや国内で流行しているような、キャラクター化された「分かりやすいアイコン」作品を売る手法は鳴りを潜めざるを得なくなる。
また、AIによって技法の多様化は指数関数的に進むであろうから、デジタル、動画、音楽とのコラボ、インスタレーションなどによって作品の見せ方は何でもありの様相になっていくだろう。
AIが作品の表現を加速するものとして利用価値が高いことは今さら言うまでもない事実である。
AIの乱用は質を下げるのでダメだと眉をひそめる有識者や評論家たちは時代遅れの無用の長物にならないよう気を付けたほうがよいだろう。
歴史は便利な技術によって進化するのであり、美術においてもそうであることは過去が証明しているのだ。
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